わたしの「シードル」の探し方 飲みやすく味わい多彩
リンゴで造る醸造酒シードルが人気という。ワインよりアルコール度数が低めで、健康面でも注目されている。10年ほど前から漫然と飲んでいた記者も改めて楽しみ方を勉強した。
「甘み、酸味、渋みを感じてみてください」と話すのは東京・神田の「バー&シードレリア エクリプスファースト」オーナーの藤井達郎さん。元プロボクサーで、2015年に同店を開業して以来、書籍の監修などを通じてシードルの普及に努めてきた。21年2月には故郷の群馬県沼田市に県内初のシードル醸造所を稼働する計画だ。
シードルはリンゴの果汁を発酵させたお酒。洋ナシ果汁を加える地域もある。古くは紀元前55年にブリテン島のケルト人が似た飲み物を飲んでいた記録がある。フランスや英国、スペイン、日本などで生産され、アルコール度数は3~7%程度。シャンパンのような発泡タイプもある。
「ビールの苦みやアルコール度数が高いお酒が苦手な人でも飲みやすく、味わいも多様。気軽に自分だけのお気に入りを探すことができます」(藤井さん)。ポリフェノールが豊富で、グルテンを含まないなど健康面でも注目されている。
シードルはフランス流の呼び方。世界で生産量が最も多い英国では「サイダー」、スペインでは「シドラ」という。エクリプスでは常時ボトル約50種類、グラス約10種類を揃え、グラス1杯1100~1320円で提供している。
初心者が2、3杯飲むときのお薦めを出してもらった。
最初は長野県のシードル。「国産は淡泊ですっきりした味わいが多く1杯目にお薦め」(藤井さん)。確かに白ワイン感覚で1杯目にいい。
お次はフランスの区分で「アンデュストリエル」と呼ばれる比較的大規模な生産者の製品。「甘み、酸味、渋みのバランスが取れた王道タイプが多い」(同)。なるほどふくよかなボディーを感じる。3杯目はフランスで「フェルミエ」と呼ばれるリンゴ生産から手掛ける個性派が多い小規模生産者のもの。ぎゅっとした渋みなどは好みが分かれるかも。
次に「宅飲み」用シードルを入手しようと酒販店ワイン・スタイルズ(東京・台東)へ。常時約150種類と国内屈指の品ぞろえで知られ、英国のサイダーと日本のシードルに力を入れている。「サイダーはタンニンの渋みを重視したしっかりした味わいが魅力」と社長の田中球絵さん。
ウイスキーが好きだと話したら「シスリークロスサイダー・ウィスキーカスク」(ボトル561円)を薦められた。ウイスキーのたるで熟成させたのが特徴で、ほんのりウイスキーが香り、上品な味わいだ。自宅でシードルを飲むときは6~8度で白ワイングラスがお薦めという。
シードルは世界的な人気だ。普及を目指す日本シードルマスター協会(東京・港)代表理事の小野司さんは「05年ごろに英国でおしゃれなパッケージの製品が出て若者の間でブームとなり、米国を経て世界に広まった」と話す。
日本では酒類大手やワイナリーの製造が多かったが、近年はリンゴ農家の参入が増えている。小野さんの推計では全国に100超の生産者がいるという。ドイツの国際見本市でタムラファーム(青森県弘前市)が16年から2年連続最高賞を受賞するなど注目を集めている。こうした選択肢の拡大に健康志向が重なり、裾野を広げている。
調査会社グローバルデータ・ジャパン(東京・千代田)の推計では日本のシードルの小売市場規模は18年は13年に比べて2.8倍に拡大。コロナ禍でもワイン・スタイルズの20年のシードル売上高は前年比3割増えた。
楽しみ方も広がる。日本シードルマスター協会は16年から年1回、東京ビッグサイト(東京・江東)などで消費者や生産者らが集う「東京シードルコレクション」を開催。20年はオンライン開催のため約60人にとどまったが、19年は800人が来場した。記者も1回目から参加していた。
シードルはまだ通を気取る人が少なく、心理的な気安さも魅力といえそうだ。
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「日本版カルバドス」も
映画「凱旋門」で女優イングリッド・バーグマンが飲んで有名になったカルバドスはフランス・ノルマンディー地方名産のリンゴが主原料の蒸留酒。シードルを蒸留して製造し、アルコール度数は40%以上。日本のシードル生産者が相次ぎその「日本版」といえるアップルブランデーの製造に乗り出している。
2017年に進出した加工食品販売のサンクゼール(長野県飯綱町)は20年11月に初めてたるで熟成させたブランデーを全国の直営店などで発売。35ミリリットル入り850円を飲んでみた。お気に入りのカルバドスの有力ブランド「エイドリアン・カミュ」のような複雑さはないが、ほっこりした優しい味わいを楽しめた。
(堀聡)
[NIKKEIプラス1 2021年1月9日付]
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