浮世絵・日本画、フィギュアに 立体化で魅力を再発見
浮世絵や日本画を題材にしたフィギュアやペーパークラフトが人気を博している。ユーモラスな動物画や迫力ある風景画を立体化すると、新たな魅力が立ち上がる。
ひれで水草の葉を持ち、楽しそうに踊り、すくい網を三味線のように抱えた金魚たち――。フィギュアの造形企画製作を手がける海洋堂(大阪府門真市)は、2020年8月に江戸時代末期の浮世絵師、歌川国芳が描いた「金魚づくし」を立体化したコミカルなフィギュアを発売した。
国芳が活躍した時代には、天保の改革が始まり、遊女や歌舞伎役者を描くことが禁止された。規制から逃れるため、国芳は猫や金魚などを擬人化したユーモラスな戯画を多く描いた。金魚づくしもその一つ。同社の白川重基さんは「平面的で少しデフォルメを利かした表現意匠は、キャラクター的でもあり、非常にフィギュア化にむいている」と商品化の背景を明かす。
「かわいい」に関心
造形作家が粘土で原型を作り、複製した見本を基に金型を製作して量産する。難しいのは「平面では存在しない裏側を無から作り出す」(白川さん)過程で、ここが腕の見せどころだ。同社では、これまでにも浮世絵や日本画をモチーフにした作品を製作。「平面から立体にすることでこれまでにない魅力が生まれる」(白川さん)と話す。
玩具の企画・製造をするキタンクラブ(東京・渋谷)でも「ART IN THE POCKET」と題し、浮世絵や日本画を立体化したシリーズを販売する。20年10月に江戸時代の絵師、長沢芦雪の「白象黒牛図屏風」に描かれた牛と子犬など3種類を発売した。
江戸時代に描かれた「かわいい絵画」は近年、美術ファンにとどまらない関心を集めている。芦雪などを扱い、13年に府中市美術館で開催された「かわいい江戸絵画」展がきっかけとなり、昨年も「かわいい江戸の絵画史」(金子信久著、エクスナレッジ)が刊行されるなど人気は衰えない。キタンクラブのフィギュアもそうした流れのなかで商品化された。
原画のかわいらしさを再現するため細部まで神経を払う。絵を横に並べて、全く同じに見えるように立体化を目指した。平面作品をそのまま立体に起こすと造形が不自然になる場合がある。そのため「牛の首の角度などの調整に気を使った。原画では見えていない後ろ側や足の裏なども丹念に作り込んだ」(キタンクラブの企画担当者)。
彩色も重要だ。原画では子犬の白と牛の黒が対比されているが、「原画の牛は墨の濃淡が美しい。それを再現するため淡い色味の表現を工夫し、ぼかしをいれるなどしている」(同)。
組み立てる楽しみ
趣味で浮世絵の立体化に取り組む人もいる。インターネットサイト「亀泳堂本舗」で自ら設計した浮世絵のペーパークラフト作品を公開しているのが田代勤さんだ。3年ほど前から葛飾北斎の「富嶽三十六景」や歌川広重の「東海道五十三次」など10点あまりを制作してきた。
設計から組み立てまで一人で行う。「画集でじっと作品を見て、平面のものをどう立体に起こすか想像し、パーツを作っていく」。会社をリタイアする前はエンジニアだった田代さん。独自に作成したプログラムを使い、多いものになると2000以上にのぼるというパーツを設計する。
サイトに画像を掲載している作品を自作してみたいという希望者には設計図を送っている。「新型コロナウイルスの流行で家にいる時間が増えたからか、去年は多くの問い合わせがきた」という。ステイホーム期間が長引くなか、浮世絵を「組み立て、手に取って眺める」楽しみはじわじわと広がっているようだ。
(赤塚佳彦)
[日本経済新聞夕刊2021年1月5日付]
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