昇進を辞退する女性、もったいない 茅野みつるさん
伊藤忠商事常務執行役員(折れないキャリア)
米国弁護士として実績を積んできた。2003年、世界経済フォーラムの「次世代のグローバルリーダー」に日本人女性として初めて選ばれた。13年には総合商社で初の女性執行役員に就くなど「女性初」の冠も多い。物腰は柔らかいが、粘り強く交渉する姿勢が社内外の信頼を集める。
父親の転勤で中学時代から米国に住んだ。日本企業が製造物責任の訴訟に巻き込まれるのを目の当たりにし「日本企業を守りたい」と考えたことが弁護士を志した原点だ。
大学卒業後ロースクールに進み、国際法律事務所に就職した。そこでメンターとなってくれた事務所パートナーは同じ女性で刺激を受けた。「ノー、というのは簡単。双方のパイを大きくする解決策を出すのが成功への道と学んだ」。仕事に打ち込み、自身もパートナーへと駆け上がった。
順調に見えるが、アジア系の若い女性にはプレッシャーがかかっていた。新人時代はお使いと間違われる場面があった。訴訟の相手側弁護士は長身のベテラン白人男性が多い。法廷の外でいきなり怒鳴られ、見下されたと感じたこともある。
「自分は弁護士」と積極的にアピールすることが必要だと痛感した。相手がどのような偏見を持っているかを考え「先取りして行動することが大事」と話す。
事務所で地歩を固めて香港に転勤すると、顧客だった伊藤忠商事と縁ができる。「日本企業を守る」という初心に導かれるように入社した。引き抜いてくれた当時の法務部長もメンターだ。営業担当と交渉のテーブルにつく毎日は充実し、昇格に関心はなかった。だが、肩書が発言に重みを与えることを諭され、引き上げられた。「女性は昇進を辞退しがちだが、もったいない」と今では思う。
03年の授賞式で「企業で働く女性のためにできることをしたい」と宣言した。当時、女性リーダーの育成は社会課題としてあまり認識されていなかったが、女性活躍に向けた検討会を立ち上げてメンバーに加わった。そこで実現させたのが自らを助けてくれたメンターの制度化だ。
18年から米国事業を率いる。コロナの感染拡大で前例のない事態に直面するが、ひるまず危機に向き合う。これまで後進の道を切り開いてきたように。
(聞き手は世瀬周一郎)
[日本経済新聞朝刊2020年12月28日付]
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