コロナ禍で送別会が開けない著述家、湯山玲子さん

著述家、プロデューサー。東京都生まれ。「女装する女」「女ひとり寿司」など著作多数。クラシック音楽のイベント「爆クラ」を主宰。テレビのコメンテーターとしても活躍。
著述家、プロデューサー。東京都生まれ。「女装する女」「女ひとり寿司」など著作多数。クラシック音楽のイベント「爆クラ」を主宰。テレビのコメンテーターとしても活躍。

コロナ禍で春に歓送迎会ができませんでした。定年を迎えた先輩の送別会を開けず、申し訳なく感じています。感染の収束も見えないため悩んでいます。(東京都・50代・男性)

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コロナは私たちの生活を変えてしまいました。時期尚早と言われ、文化風土に合わないなどで敬遠されていたリモート会議などが当たり前になり、職場というスペースが「本当に必要?」というそもそも論まで出てきています。多様性を認めた働き方改革の功労者は、コロナウイルスだった、などという皮肉な現状が立ち現れてもいます。

人間は変化を嫌う性質がありますが、同時に変化を求め、楽しむこともできます。くしくもコロナと同時にやってきた人工知能(AI)とSNS(交流サイト)を使ったコミュニケーションの変革期ならば、いち早く波に乗った方が生きやすくなります。

さて、定年を迎えた先輩の送別会は、今も将来も実現不可能と頭を切り替えた方がいい。原点に立ち返って、先輩への感謝、新しい門出を祝うのなら、どういう形がいいのか? 改めて考えてみましょう。今まで思考停止で行ってきた慣習を違う形で表現する、というクリエーティブを行ってみるのです。先輩の趣味嗜好をリサーチし、皆からお金を集めてサプライズプレゼントを贈るのもアリですが、私のオススメは文集です。

先日、おうち時間の片付け中に、小学校卒業時の寄せ書き帳が出てきたのですが、まあ、これがおもしろい。流行のギャグを取り入れたふざけた内容の中に真実を突く鋭くも温かい文章があり、「他人が自分を書いたテキストは承認欲求を大いに満たすものだよなぁ」と感心しました。

単なる寄せ書きだと、お疲れ様でした系のありきたりなものになるので、文集を作るという目標の下、「文字数700で○さんと私の間に起こったアノ出来事」などのテーマを決め、会社や取引先の関係者に文章依頼。今はネットで小冊子を簡単に作れます。

定年を迎えた男性(文意からそう察します)の大半は居場所をなくし、アイデンティティーの喪失に陥りやすいといいます。ところが、仕事関係者から寄せられた「自分に対して書かれたテキスト」は落ち込んだ気分を吹き飛ばし、新たな人生を踏みだすエネルギーになるでしょう。

この文集、執筆者全員に配りましょう。先輩を巡るいろんな社員の物語に必ずや浮き彫りになってくる仕事の哲学や精神は、仕事人たちのレガシーだから。花束贈呈とスピーチのありきたりな送別会よりも、断然コチラの方が先輩の心に響くと思いますよ。

[NIKKEIプラス1 2020年12月26日付]


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