入院中の子と親を支援 家族滞在施設、コロナとの闘い
難病で入院中の子どもや親たちを支援する家族滞在施設が新型コロナウイルスの感染拡大で困難に直面している。経済的負担をできるだけ抑えながら子どもの入院先の近くで暮らせる拠点として頼りにされてきたが、普段通りの活動ができない状況。受け入れ人数や設備の使用を制限しつつ、何とかニーズに応えようと知恵を絞っている。
12月初めの火曜日、国立成育医療研究センター(東京・世田谷)に隣接するドナルド・マクドナルド・ハウスせたがや。滞在していた山岸鉄矢さん(38)は三女(3)への肝移植手術を1カ月前に終えたばかり。妻の悦子さん(38)とハウス内の共用キッチンで昼食の準備をしていた。
一家は愛知県津島市から移植のため成育医療研究センターにやってきた。三女も鉄矢さんも経過は順調だが、センターで子どもに面会できるのは新型コロナ拡大もあって1日4時間に限られる。夫妻は1泊1000円でハウスに泊まり、自炊しながら通っている。
悦子さんは「米やパン、食材にトイレットペーパーまでハウスには生活に必要な寄付品がある。多くの心配事を抱えるなか、使わせてもらえるのがいかにありがたいか」と、感謝の気持ちを口にする。
家族滞在施設は企業の社会貢献事業や財団運営、病院付属などタイプは様々。全国で100カ所はあるとされる。マクドナルド・ハウスは11カ所、小児がん支援に軸足を置くアフラックペアレンツハウスも東京と大阪に3カ所ある。多くの場合、運営を支えるのは寄付やボランティアだ。
コロナ禍が及ぼした影響は大きい。公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの山本実香子事務局長は「3月末にシカゴの本部から新規家族の受け入れ中止の強い要請が来た。日本は欧米と状況が違うと説明したが、4月中旬に札幌や埼玉で受け入れを中断。6~8月にかけ、一時はほとんどのハウスを閉めた」と話す。
財団では感染状況に応じて新規受け入れゼロ、定員の40%稼働、50%、75%、100%と5段階に分類。段階によってキッチンやランドリーの使用制限、ボランティアの活動縮小をはじめ細かく運用ルールを定めた。秋以降は施設ごとに受け入れを再開し始めた。
23家族が利用可能なせたがやハウスは12月初旬で100%稼働。ただ感染者が出た場合に追跡しやすいようチェックイン日を2週間に1度に集約している。2020年の11ハウスの合計宿泊数は例年の4万泊から1万9000泊程度に半減する見通しだという。
アフラックペアレンツハウスを運営する公益財団法人がんの子どもを守る会の上田崇志事務次長は「東京の2カ所のうち、夜間にスタッフ不在となる亀戸はセミナールーム以外を閉め、浅草橋に集約している」と話す。稼働中のハウスも特定の階は全室使わず、万一の場合のセーフゾーンに充てる考えだ。
施設スタッフが奔走するのは、病気の子どもを抱えた親同士の本音の情報交換や交流の場という役割が通常の宿泊施設では代替できないからだ。実際マクドナルド・ハウスせたがやに滞在中の山岸悦子さんは同時期に居合わせた木村優莉加さんとよく話していた。「ひとりの時は落ち込むこともあった。同じ境遇の人と話すことで心を強く保つことができた」と悦子さん。
大口の寄付がなくなるなど施設の運営はどこも楽ではない。新型コロナが再び拡大する今、スタッフは薄氷を踏む思いで受け入れ継続への努力を続けている。
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活動支えるボランティア
家族滞在施設を支えるのはボランティアだ。マクドナルド・ハウスには各施設に150~200人、運営方式が若干違うアフラックペアレンツハウスには東阪各10人ほどが登録する。
英会話講師もする清水ゆかりさん(61)はマクドナルド・ハウスせたがやで設備の消毒や清掃を担当。思春期の子どもがリンパ腫を発症して仕事をやめ、時には車中泊をしてベッド脇に付き添った経験があり、切迫感が痛いほどわかる。「ハウスではくつろいでほしい」との思いが強い。
今は公共交通機関で通うボランティアを制限しており、ハウス近くに住む清水さんの活動もコロナ禍の前の月2回(各3時間)から月8~9回に増えた。利用者と顔を合わせることは少ないが、「ありがとう」の一言に気持ちが引き立つという。
(礒哲司)
[日本経済新聞夕刊2020年12月23日付]
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