カジダンへの道 家事×仕事で新たなアイデア
NPO法人コヂカラ・ニッポン代表 川島高之氏
料理に片付け、地域活動。家事について書いてきましたが、最終回では改めて仕事との両立や相乗効果に触れようと思います。
妻が出張で私も急な残業。保育所に預けた息子をどうしよう。仕事か家事か。二者択一を迫られる場面は多くありました。その瞬間はどちらか選ばなければなりません。ただ長い目でみた場合、家事にも心を配る方が結果的に仕事の能力と成果が高まると私は信じています。実際に家事と仕事、異なる視点の掛け算からアイデアが生まれる経験もしてきました。
もう20年以上前、子育て中の私は息子のベビーカーを押しながら食材やおむつをまとめ買いするのが習慣でした。荷物は重く、疲れ果てて帰った日、インターネットで買い物ができる海外のサービスの記事が目に留まりました。「これはいい」と思いました。ただ日本で展開するには近代的な物流倉庫がないのがネックで、新たにつくるには資金調達が課題になると指摘されていました。
妻と共働きだった私は総合商社の中で転勤の少ない金融部門に異動し、新事業を探していました。そこで物流施設に絞って投資する不動産投資信託(REIT)はどうかと思い付き、社内で起業。上場にまでこぎつけました。こうした発想は身につけた金融の専門知識と、家事や子育ての経験との掛け算で生まれたと思います。
後に管理職、関連上場会社の社長を務めましたが、目指すべき方向さえ伝えたら、あとは部下の力を信じ、裁量権を与えるスタイルでやってきました。これも家庭や地域での体験からきています。
PTA会長を引き受けても、あまり時間は割けません。他の役員に「責任は私が持ちます。この範囲ならその場で決めてきてかまいません」とお願いし、物品の購入や地域団体との交渉などを任せました。そうしないと回らなかったからですが、皆のやる気は増したように感じました。少年野球のコーチでも子どもに細かく指示するよりは、任せて考えさせた方が彼らの成長を実感できたのです。
働き方も変わりました。会議は時間や回数、参加人数をそれぞれ半減し、徹底して無駄な仕事も減らしました。長時間労働が無理で派遣で働いていた女性の力を見込んで正社員になってもらい、任せた仕事で大きな成果が出るといったうれしい出来事も次々と起こりました。部下の私生活に配慮しつつ組織の成果も出す上司「イクボス」という言葉は家事をする私が管理職や経営者として意識してきたことを基に定義を考えました。
妻からみれば家事をする私はまだ2軍選手だと思いますが、少しは貢献している感覚を味わわせてもらいました。息子には家や地域で動き回る父親の姿をみせられました。家事に関わった時間は私の財産です。
1964年生まれ。慶応大学卒業後、三井物産に入り関連の上場会社社長に。家庭と仕事の両立を実践し「元祖イクボス」と呼ばれ、講演多数。著書に「職場のムダ取り教科書」など。
=この項おわり
(次回からソウ・エクスペリエンスの西村琢社長が担当します)
[日本経済新聞夕刊2020年12月22日付]
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