「スポンサー役員」で管理職増やす 女性の昇格後押し

2020/12/21
女性の仕事の評価に直接関わらない幹部がスポンサー役員を務める(東京都中央区の新生銀行グループ)
女性の仕事の評価に直接関わらない幹部がスポンサー役員を務める(東京都中央区の新生銀行グループ)

管理職に就く女性を増やすための「スポンサー制度」が注目されている。役員がキャリアの相談に乗るだけでなく、女性社員の実績を社内に伝えたり、人脈づくりを手伝ったりすることで昇格を後押しする仕組みだ。海外で先行していたが、国内でも導入企業が出始めている。

新生銀行は2019年にスポンサー制度を始めた。同銀行やアプラスなどグループ計4社ごとに昇格させたい女性社員を「プール人材」として選ぶ。仕事の評価などに直接関わらない「スポンサー役員」が直属の「オーナー役員」とともに女性の育成に一役買う。

プール人材は経団連などが開く研修や社内外の会議に優先的に参加でき、人脈を広げられる。スポンサー役員は数カ月に1度、面談でプール人材と話し、その女性を社内に宣伝する役割を果たす。自分が統括する会議に出席してもらうほか、女性に代わって直属の部長やオーナー役員に対し、キャリアの希望や能力の生かし方を伝える。

部長や役員、人事部がプール人材を推薦する。最終的には銀行やグループ会社の役員などで構成するグループ女性活躍推進委員会が決める。女性とスポンサー役員の組み合わせを決めるのも同委員会だ。

女性側の希望も聞く。「子育てを経験した女性の話を聞きたい、と指名されたこともある」。自身もスポンサー役員を務める新生銀行グループ本社ダイバーシティ推進室長の西玉音さんはこう話す。制度開始から1年でプール人材59人のうち、21人が管理職かさらに上の役職に昇格した。

プール人材となった新生銀行リテール営業推進部の松永美生さんは「後輩女性を引き上げるために、その力のある役職に就かなくてはと思うようになっていた」と話す。松永さんは顧客情報管理の分野で働く。後進育成やチームをまとめる能力には自信がなかったという。

そこで、グループ総務部チーフオフィサーであり、スポンサー役員も務める沢地孝一さんとキャリアや人材教育のあり方などについて面談のたびに熱く語り合った。「上司とは業務以外のことは意外と話さない。沢地さんは日ごろから考えていることも気軽に聞いてもらえる貴重な相手だった」と振り返る。

役員にもメリットがあるようだ。沢地さんは複数社員のスポンサー役員を務める。「本人の上司とも話すので、自分自身のネットワークも広がった」と説明する。性別や世代が異なる人材と触れ合うことで、多様性を考える機会にもなる。

海外は導入が早く、ゴールドマン・サックスは09年に制度化した。選抜した女性社員にスポンサー役員を2人つける仕組みで、これまでアジアで200人以上が利用し、そのうち5割が昇格した。

ゴールドマンでは部長級は世界中の候補者から人材を選ぶ。日本を含む支社の女性はたとえ優秀でも国外に評判が届きにくく、海外での登用に高い壁があった。スポンサー制度の対象となった女性は昇格候補としてお墨付きをもらい、世界に名前を示すことができる。社内外に名前を知ってもらえる重要なプレゼンテーションの前などは、スポンサー役員がリハーサルに付き合うこともある。

スポンサー制度は優秀な女性社員の離職防止にも役立っている。転職して10年たち、キャリア形成に悩んでいた同証券グローバル・マーケッツ・コンプライアンス部長の江原直子さんは制度の対象となり、昇格を果たした。「自分が部署のなかだけではなく会社全体で一定の評価を受けたとわかり、仕事へのモチベーションが向上した」と語る。

単に制度を導入するだけでは機能しない。当初、新生銀行でも「スポンサー役員のなかには女性社員に何を助言すればいいかわからず、困った人もいたようだ」(西さん)。

企業の女性管理職育成に詳しいワークシフト研究所(東京・港)社長の小早川優子さんは「スポンサー役員になる人が重要性や狙いについて納得し、女性育成の留意点などの研修を受けることも必要になる」と指摘する。

女性にも準備が要る。ゴールドマン・サックス証券の取締役人事部長、上田彰子さんは「日々の業務のなかで、能力やリーダーシップの素質があると周囲にうまく示せるようになることが大切だ」と話す。

ゴールドマンは今年、グローバルでスポンサー制度の対象をアジア人の男性にも広げた。LGBT(性的少数者)の社員も参加している。ダイバーシティー経営を加速し、多様な人材が活躍できる環境整備の一助となるかもしれない。

ワークシフト研究所の小早川さんによると、スポンサー制度は女性管理職を増やすのに有効だ。一方で「なぜ女性だけにスポンサー役員を付けるのか」と不公平感を持つ社員も出てくる。「女性を管理職に登用するのは会社の発展と継続に必要、とトップが発信を重ねる必要がある」と話す。

トップが「会社の発展に必要」と発信を
制度を取り入れる企業の担当者は「女性管理職が自然に増え、制度が不要になるのがゴール」と口をそろえる。厚生労働省の調査によると、課長級以上の管理職の女性比率は12%(19年度)にすぎない。ロールモデルが少ないうえ、子育てなどで時間的な制約があり、社内外で人脈をつくる機会が少ない人は多い。こうした制度で昇格を後押しする取り組みは当分の間、意味があるだろう。
(砂山絵理子)

[日本経済新聞朝刊2020年12月21日付]