避難所の設営を体験 段ボールベッド・トイレは丈夫
東日本大震災から来春で10年。避難所生活で困った点は睡眠や個人空間、トイレの確保だ。それを補う段ボールベッドや室内用テント、簡易トイレを記者が設営し、効果を検証した。
まず、ベッドの設営を体験するために向かった先は段ボール製造のマツダ紙工業(大阪府東大阪市)。「これがベッドです」。社長の松田和人さんが指さしたのは、長さ1メートル弱、幅約40センチ、厚さ21センチの箱。天板1枚と中枠、仕切り板各3枚が収納されていた。
松田さんに教わりながら組み立てた。中枠を長方形に広げ、蛇腹状の仕切り板を広げて入れる。仕切り板は縦横の長さが違うので、向きを間違えると中枠に収まらない。仕切り板が入らず焦ったが、「縦と横が逆です」と言われ、向きを変えたら収まった。仕切り板の入った中枠を縦に3つ並べ、四つ折りの天板を広げて載せれば完成だ。
約2分でコンパクトな箱が長さ2メートル弱、幅80センチ、高さ41センチのベッドに変わった。収納時の重量は7.7キログラムと木製や鉄製のベッドより軽い。工具もいらず、説明書を見れば簡単に組み立てられる。
寝心地はどうか。長さが2メートルあるので、身長1メートル72センチの記者でもゆったり寝られる。東日本大震災時は多くの避難者が冷たくて硬い体育館の床で寝ざるをえなかったが、段ボールは肌触りもソフト。床からの冷気も遮るので暖かい。一般の段ボールより5割厚く加工してあり、1トンの重さにも耐えられる。
何よりも良い点は床のホコリや雑菌を吸い込まずに済むこと。現在のコロナ禍では、なおさら長所が際立つ。価格は9000円程度。今年に入り地方自治体からの注文が相次いでいる。「コロナ禍で段ボールベッドの良さが見直されている」(松田さん)
避難所で女性が気にするのがプライバシー。着替えなど他人の視線が気になる。間仕切りを設置する避難所も増えたが、上からのぞかれる恐れもある。その問題を解消するのが室内用テントだ。アウトドア用品大手のモンベルは「ブラインドシェルター」の商品名で、2013年から避難所向けなどに販売する。
モンベル本社のホールで設営に挑戦した。テントを張るのはボーイスカウト以来50年ぶり。床面を広げ2本のポールを対角線上に立て四隅のプラグに差し込む。テントの四隅に16カ所あるフックをポールにはめ、天井を取り付ければ完成。広報部の三宅一彰さんの手を借り10分ほどで終了した。フックをはめ込むのに力がいり、五十肩の記者には少々きつかった。
密室なので周囲の目は気にならない。3メートル四方と大人4人が寝泊まりできる広さがあり、一家で過ごすには十分だ。防水加工をしない分、屋外用より価格(税別1万9500円)は安い。診察室として使った例もあるそうだ。
トイレも大きな問題だ。断水が続き避難所のトイレが使えなくなったり、数が不足したりして、体調不良になる事態も多い。そんなときに役立つのが段ボールトイレ。囲いなどで覆えば仮設トイレとして使える。「複層加工した段ボールなので10年はもつ」。強化段ボールメーカー、京阪紙工(大阪市大東市)社長の住谷正司さんは強調する。
コの字の段ボールを立てて開口部に板を差し込み、45リットル入りのゴミ袋をセット。上に蓋付きの便座を差し込めば1分弱で完成だ。1.2トンの強度があり座っても動かない。凝固剤を使えば汚物を固めてゴミとして処理できる。価格は6000円(税込み)。7年前から段ボールトイレを手掛け、自治体や個人向けに年400台販売する。
テントは2人がかりだったが、ベッドとトイレは1人で設営でき効果も実感できた。いつ災害が起きてもおかしくない昨今、備えが大事だと改めて感じた。
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設備の有無 生活の質に直結
避難所生活の課題は調査でも裏付けられている。大正大教授の岡山朋子さんが2016年の熊本地震の被災者に「避難生活で困ったこと」を複数回答で尋ねたところ、3分の2が「眠れる環境」と答えた。岡山さんは睡眠の確保以外でも段ボールベッドを評価する。「高齢者でも寝起きがしやすく、寝たきりになるのを防げる」
プライバシーやトイレは女性に大きな負担をかける。遮蔽物がないと着替えなどができずストレスがたまる。岡山さんは「女性は排せつをためらい水分を控える傾向が強い。エコノミークラス症候群になるのは圧倒的に女性」と話す。仕切りや仮設トイレの整備は不可欠だろう。
(高橋敬治)
[NIKKEIプラス1 2020年12月19日付]
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