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「デザイン思考」はユーザーの潜在的な要望を捉えて新たな価値を生み出す イラスト・よしおか じゅんいち

「デザイン思考」はユーザーの潜在的な要望を捉えて新たな価値を生み出す イラスト・よしおか じゅんいち

日本企業の商品・サービス戦略に、「創造性」を回復させようとする機運が徐々に広がっている。90年代からの過度な株価重視の経営は、結局は経営者を短期志向化させ、日本企業が培ってきた長期視点の経営資源を急速にすり減らせてしまった。創造的な技術開発は次々に削減され、豊かな消費生活を彩るマーケティング施策も影を潜め、投資効率と採算性だけが重視される戦略になった。数多くあった日本発のイノベーションも、圧倒的な投資力を誇る米国や中国の企業にほとんど代替された。

2つの危機が触発

潮目を変えたのはリーマン・ショックと東日本大震災という2つの経済危機である。日本企業がこのまま株価重視な経営を続けても、かつての競争力は回復できないと気づき始めた一部のイノベーターたちが「デザイン思考」という概念を輸入して、硬直化した経営意思決定に創造性を回復させようと唱えはじめた。「デザイン思考」とはユーザーの行動を出発点に潜在的な要望を捉えて新たな価値を生み出す思考法・活動のことを指す。それ以来、「デザイン思考」の流行は拡大を続け、今では企業研修の定番の1つになった。

概念自体は以前からあったが、流行の直接的なきっかけを作ったのは米国IDEO社である。ティム・ブラウン著『デザイン思考が世界を変える(アップデート版)』(千葉敏生訳、早川書房・2019年)は、同社の多様な試みと基礎概念を一冊にまとめ、世界的ベストセラーになった。アップデート版では、変わりゆく米国企業経営に合わせた新しい提案も多数盛り込まれた。

「デザイン思考」の中心概念は人間中心設計という考え方だ。クリフ・クアンとロバート・ファブリカント著『「ユーザーフレンドリー」全史』(尼丁千津子訳、双葉社・20年)は、原子力発電所の制御室から最新のスマートフォンや人工知能のデザインまで、ユーザビリティデザイン開発の歴史を、メンタルモデルやフィードバックなど認知科学のエッセンスを用いて面白く紹介している。人間が道具や周辺環境を理解し、考えを巡らしてそれを最大限に活用するためには、道具や周辺環境からのフィードバックが必要不可欠であり、それをもとに自身の中のメンタルモデルを絶えず修正する営みこそが創造性の正体の一端である。使いにくい道具やシステムには人間本来の創造性発露を促す有効なフィードバックが備わっていないので、それらを利用し続けても人間自身は何も成長できない。

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