4年生になり就活したが、なかなか決まらなかった。「20代のうちにチャレンジしてもいいのではないか」。担当教員からのプッシュもあり、イラストレーターとして生計を立てることに決めた。

3年間イラストレーターとして働いた。スマートフォンのゲームのキャラクターなどを手がけた。「プロ」として自分が手がけた作品がたくさんの人の目にとまり反響を得られたことは代えがたい経験となった。一方で、収入は不安定。「将来家庭を持つことを考えるとやはり就職したほうがいい」と思い至った。

3年間の勤め人としてのブランクがある。選考では不利にはならなかったのか。「内定先企業には個人事業主として、1人で仕事をマネジメントする力を能力として評価してもらえた」

企業側の「新卒」の扱いも少しずつ変化し始めている。ソフトバンクは15年に、30歳未満であれば通年エントリー可能とする採用方式「ユニバーサル採用」を設けた。入社時期は4月と10月だが、エントリーはいつでも受け付ける。

直近3年の新入社員のうち、約10%が海外大卒か既卒だ。「経験を生かして活躍してくれるかどうかに視線が向いている。ストレートでないとダメだというのは全くない」(人事総務統括人事本部の杉原倫子部長)

米国の2年制大学と4年制大学に計5年間留学していた川北淳平さんは昨年10月にソフトバンクに入社した。昨年5月に卒業した川北さんにとって、3~4月のうちに就職活動が本格化する採用慣行は不利だ。通年採用なら「一社一社の選考に集中して、自分に合う会社か判断できる」。

「30歳の新卒」採用はまだゼロ

新卒扱いの年齢を上げる企業は増えているものの、ソフトバンクのように制度として機能している企業はまだ少ない。29歳以下まで新卒扱いにしているある大手金融では21年卒の採用で、27~28歳の応募は約40人あったが、実際採用されたのはゼロだった。

企業の採用活動に詳しい人材研究所(東京・港)の曽和利光社長は「30歳に近い年齢を選考する場合、自社の同年代の社員と比較して必要な人材かどうかを見極める傾向が強く、どうしても採用基準に達しないことが多い」と説明する。

特に新型コロナウイルス禍においては、これまで求職者優位の売り手市場に変化の兆しも見られる。第二新卒などの採用支援を手がけるUZUZ(東京・新宿)の川畑翔太郎専務は「なぜいったん就職しない道を選んだのか、きちんと説明できないと厳しい」と指摘する。ピカピカの新卒学生を重視する傾向は依然としてある。

一方で、広く門戸を開いていたからこそ多様性のある人材を確保できたケースもある。少子高齢化で、大学卒業予定の就職希望者数は減少トレンドにある。「中長期的には人材が不足するので必要な制度だ」(曽和社長)との見方もある。

経済のグローバル化が進み、企業が求める人材像は変化している。新卒一括採用を軸としたこれまでの採用慣行を続けても、もはや対応することは難しい。ギャップイヤーを経験した若者が輝ける環境を提供できるかどうかは、企業の今後の成長を左右することになるかもしれない。

(鈴木洋介、仲井成志)

[日経産業新聞 2020年12月9日付]