若者が大学の入学前や在学中、卒業後就職するまでの期間に有意義な取り組みに打ち込む「ギャップイヤー」に注目が集まっている。「新卒ブランド」が根強く横たわっている中、こうした「ワケあり」人材こそが新たな風を吹き込めると評価する企業が出てきた。近道だけが道じゃない。これまで不利とされていた寄り道や回り道も就職活動の武器になる時代が少しずつ近づいている。
東京大4年の香川幹さんは3年生の10月に休学し、漁業を支援する一般社団法人「フィッシャーマン・ジャパン」(宮城県石巻市)が紹介する漁師のもとで仕事を始めた。
国家公務員も含め志望は幅広かった。大学ではそれまで卓球部に所属し練習漬けの日々を送っていた。「部活以外何も知らないのはまずい。このまま就職するのなら、一度は第1次産業に携わってみたい」。そんな危機感がきっかけだった。
現地では養殖漁業の手伝いや漁船に同乗して魚を網で取る経験をした。漁業には力仕事も伴うが、魚を扱う楽しさを肌で学んだ。
それだけではない。複数の家族と昼食や夕食をともにすることも多かった。受け入れてくれた漁師を「お父さん」、その奥さんを「お母さん」と呼ぶようになった。漁村では「自分のことを家族だと思ってくれる人が多い」と笑う。漁師やその家族の気前の良さ、おおらかさに引かれ、いつしか自分も「こういう人たちと仕事で携わりたい」と思うようになった。

漁師としての仕事を終え東京に帰ってきた昨年2月、香川さんは就職活動のため説明会に参加した。水産系の商社や省庁の説明を聞いたが「石巻での体験が忘れられなかった」。水産業を制度面や補助金で下支えする仕事ではなく「(産業の)先端に行って、新しいものを見てみたい」と思い、漁業に直接携わる決心をした。
春からは漁業関係の会社に就職し、漁村に住みながら漁業のブランディングやPRの仕事を始める。
文部科学省の学校基本調査によると、四年制大学の卒業者のうち8割は4年で卒業するが、1割程度は5年以上在籍する傾向が続いている。ただ大学の現場では、学生の留年や休学の考え方には変化の兆しもあると指摘する声もある。立教大キャリアセンターの林良知さんは「休学をすることがネガティブではなくなってきている。目的が明確な休学は不利にはならないと学生も考え始めている」と分析する。
卒業後イラストレーターに
卒業後にギャップイヤーを経験した後、就職にこぎ着けた人もいる。愛知県内の私大を2017年春に卒業した男性(25)は卒業後3年以上を経て21年1月にIT(情報技術)企業に就職。エンジニアとしてスタートを切った。
大学在学中にイラストを描きSNS(交流サイト)に投稿するとたちまち人気になった。それが企業の目にとまり仕事をもらえるようになった。1枚イラストを描くごとに3万~5万円。大きな依頼なら10枚で30万円を手にすることもあった。