「周囲の目は気にしすぎない」 何気ない個性も強みに
ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021受賞者インタビュー
仕事で行き詰まったとき、どうすれば状況を打開できるか。女性誌「日経ウーマン」(日経BP)が選んだ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」の受賞者2人は留学先で自分を見つめ直したり、身近な現場で仕事の意義を見つけたりするなど模索を続けてきた。
逆風のなかで上場、「圧倒的な1番になる」
大賞に決まった端羽英子さん(42)は新規事業などの課題を相談したい企業と、専門知識を持つ個人を結びつけるビザスクを率いる。世界の株式市場が新型コロナウイルス禍で荒れた20年3月、東証マザーズ市場への上場を果たし、「圧倒的な1番になる」という目標に向かって突き進んでいる。
キャリアの出だしは順風満帆ではなかった。東京大学在学中に結婚し、新卒でゴールドマン・サックス証券に入った。入社1年目に妊娠がわかる。仕事は激務で子育てとの両立は難しい。退社を決意したとき「こんなことなら別の人を採用しておけばよかった」といわれた。「納得したと同時に求められる人材になりたいと強く思った」のが今につながっている。
求められる人材になるにはどうすればいいか。答えを導いてくれたのは、日本ロレアルで働いた後、夫の留学に同行して渡った米国での出来事だった。自身も子育てしながら勉強して入った米マサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールで、差異化できる個性を見つけることが大切だと同級生に教えられた。
誰にもまねできないような奇抜な個性である必要はない。その友人が「若い日本人で子育てしながら働いていた女性はこの学校で端羽さん1人しかいない」と指摘した。自分を表すキーワードを人とかぶらなくなるまで連ねることで、自分の個性は見つけられると気づかされた。この学びは個人の専門知識を生かすビザスクを立ち上げるヒントになったという。
帰国後は国内投資ファンドのユニゾン・キャピタルで5年間働き、12年にビザスクを設立した。経営だけでなく、マーケティングや広報など幅広い仕事に携わりたいという希望をかなえるため、起業を選んだ。「どこまで成長できるかも自分次第。終わりのない仕事を大変だと感じる半面、楽しんでもいる」
離婚を経験し、一人で娘を育ててきた。女性であることが不利だと感じたこともあったが「ワークライフバランスは人生全体でとるものだと考えるようにしている」。子育てを頑張れば頑張るほど、仕事のチャンスが閉ざされていくように感じて落ち込むこともあった。そんなときは「ライフ」の時期だと気持ちを切り替え、割り切った。
子育てが一段落した今は「まさにワークの時期が来ている」。今後の目標はグローバル展開だ。4月、シンガポールに海外現地法人を設立し、日本に住んでいても海外の知見が手に入るネットワークづくりを進めている。「やらない後悔よりやる後悔」をモットーにこれからも挑戦を続けていく。
社内に眠る「乳酸菌」発掘、免疫高める商品で注目
「商品を開発するときはお客様のどんな笑顔が見たいか、理想のシーンをまず思い浮かべる」。キリンホールディングス(HD)執行役員の佐野環さん(49)は乳酸菌関連ブランド「iMUSE(イミューズ)」や缶チューハイの氷結などヒット商品を数多く生み出してきた。
営業を志して入社した。当時女性が営業職に就くことは珍しく、客からは厳しい言葉を投げかけられることもあった。飲料の入った重い段ボール箱を車から運んで店に陳列するなど力仕事も多い。手も服も汚れて心が折れかけていたときのことだ。自分が並べた商品を買い物カゴに入れる子連れの女性を見かけ、涙があふれた。
「自分はこういう家庭に商品を通じて幸せを届けるために働いていたんだと気づいた」。毎日の食事で積み上がるささやかながらも温かい幸せの一助になる。意義を改めて認識したことで、仕事への向き合い方が変わった。
営業を6年担当した後、留学や海外子会社への出向などを経て16年に事業創造部の部長に就いた。新規事業の専門部隊として新設された部だ。「健康」という広いテーマから事業の糸口を暗中模索し、やがてあまり注目されていなかった「プラズマ乳酸菌」と出合う。
キリンが独自開発した乳酸菌であり、ウイルス感染を防ぐ免疫の司令塔の役割を持つ細胞に働きかけ、活性化する。自分が持つ力で健康になることを手助けする商品の開発を目指した。17年に初めて商品を世に送り出し、20年には一部商品で免疫に関する機能性表示食品として認められた。
新型コロナウイルスの感染が拡大した20年1~10月には飲料やサプリメント、ヨーグルトなどのiMUSE商品を手に取る消費者が増え、販売数量は前年同期比約2倍に伸びた。
大切にしているのは「自分の人生は自分で選択している」という感覚だ。仕事がつらくなったときに苦しいと受け身になるのではなく「やめようと思えばいつでもやめることができる」と捉える。続けるか辞めるかは自分次第だと考えることで前向きになれるという。
20代で経験を積み、30代でプロフェッショナルになり、40代で経営人材となることを目標にしてきた。50代はさらに視野を広げてステップアップしたい。iMUSEはもちろん、NPOの活動など自分が貢献できることがあれば何でもやりたいと意気込む。
仕事に取り組む上で大切にしていることは何かという問いに対し、2人の回答は共通して「周囲を気にしすぎない」だった。「母親としてこうあるべき」という外の目と現実のはざまで端羽さんは毎日お弁当を作れなくても、ベビーシッターを頼んでも、最大限子供と向き合っていれば大丈夫と捉えることが心の支えとなったそうだ。
佐野さんは海外で出会った女性がのびのび仕事をしている姿を見て「女性はこうあるべき、ととらわれていたら力を発揮できないと感じた」と話す。商品開発でも女性ならではの視点を求められることも多かったが、消費者にとっては作った人の性別は関係ない、とも考える。自由な発想で能力を発揮する2人の姿にはパワーがあふれている。(坂本佳乃子)
[日本経済新聞朝刊2020年12月7日付]
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