データに潜む偏見に注意 STEM分野の多様化が解決策にダイバーシティ進化論(村上由美子)

2020/12/7

新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念される一方、ワクチン承認のニュースが流れ、パンデミック終息への期待が高まっている。直近の臨床試験で高い有効性が認められたいくつかの新薬が大量生産できれば、世界中を翻弄させたコロナ危機を人類は克服できるかもしれない。

欧米の新薬開発に関しては気がかりな点もある。世界で広く読まれている医学雑誌The New England Journal of Medicineはコロナ新薬開発の臨床試験で使用されるデータのうち、有色人種のものは少ないと指摘している。ヒスパニック系やアフリカ系人種の重症化比率は白人よりも高いことが確認されているが、臨床試験では白人男性の参加率が圧倒的に高い。

開発を進める製薬会社に人種差別の意図はなくとも、多くの有色人種が抱える経済状況や社会条件が、臨床試験への参加を難しくしているのが現状だ。女性や有色人種に関する医学研究が男性や白人に関するものよりも少ないという問題は以前より指摘されていたが、今回のコロナ新薬開発でも繰り返された。

データのバイアスは医学以外の様々な分野でも見られる。顔認識アルゴリズムを搭載した製品が販売され始めた時期に、アジア系やアフリカ系人種の誤認証の高さが問題になった。特に有色人種の女性の場合、誤認証率は突出していた。アルゴリズムが扱う大量のデータに人種や性別に基づく偏りが存在するため、このような現象が起こる。

ビッグデータを駆使した画期的なイノベーションが多くの産業で創出されつつある。イノベーションの恩恵が広く社会全体に行き渡るためにも、データのバイアスという課題を解決しなければならない。

多くの女性やマイノリティーの人種がSTEM(科学、技術、工学、数学)分野に広く従事することは有効な解決策になりうる。しかし、経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均を見ても、高等教育レベルの科学プログラムに進学する人のうち女性は約37%、コンピューターサイエンスでは20%にも満たないのが現状だ。

STEM分野に女性が増えれば、研究開発にインプットされるデータのみならず価値観においても多様性を担保しやすくなる。研究文化に多様性が根付いてこそ、真に包摂的なイノベーションの創出が可能になるだろう。

村上由美子
 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2020年12月7日付]