冬に集中「おなかの風邪」ノロ 薬なく大切な手洗い

強い感染力を持つノロウイルス=愛知県衛生研究所提供
強い感染力を持つノロウイルス=愛知県衛生研究所提供

冬はインフルエンザとともに感染性胃腸炎が増える季節だ。食品や水、手などを通してウイルス、細菌が感染し、激しい嘔吐(おうと)や下痢、腹痛などの症状が出る。健康な成人は数日で回復する例が多いが、高齢者は重症化することもある。こまめな手洗いなどの予防策がカギとなる。

感染性胃腸炎のうち、食品や水を経由して感染したものがいわゆる「食中毒」だ。嘔吐、下痢などの症状が出たら感染を疑ってもいい。重症化する症例の多くは細菌性だが、原因別ではウイルス性が半分以上を占める。ウイルス性は「おなかの風邪」とも表現される。冬場に流行しやすいのはノロウイルスとロタウイルスだ。

特に注意が必要なのはノロウイルスだ。少量でも感染し、ヒトの腸管内で急増する。ロタウイルスの感染は乳幼児が多いのに対し、ノロウイルスはどの年齢層でも拡大する。予防接種ワクチンもない。

感染経路は(1)汚染されたカキなど二枚貝を十分に加熱せずに食べた(2)十分に手洗いをせず、ウイルスが付いたまま調理したものを食べた(3)感染した便や嘔吐物に触れた手を介し、口から取り込んだ――などのケースだ。便や嘔吐物が乾燥し、チリとして舞い上がったものを吸い込んでも感染する。

持病のある人や高齢者、乳幼児などは脱水症状を起こしやすい。嘔吐で吐き出したものが詰まっての窒息、気道などに誤って異物を飲み込むことによる肺炎の危険性もある。

ウイルスに効果がある薬はなく、発症後は症状を軽くする対症療法が中心だ。厚生労働省は「ノロウイルスに関するQ&A」で「乳幼児や高齢者は体力を消耗しないよう、水分と栄養の補給を十分に行う。脱水症状がひどい場合には病院で輸液を行うなどの治療が必要になる」と解説する。

そのため重要なのは感染予防だ。東京都は10月下旬に「ノロウイルス等による感染性胃腸炎にご注意ください!」と呼びかけるページを公開。健康安全研究センターによる都民向けリーフレットも作成した。こまめな手洗いや、嘔吐物を処理する際の使い捨て手袋着用、二枚貝の加熱調理などを予防ポイントに挙げた。同センター疫学情報担当課の中坪直樹課長は「ウイルスを持ち込まない、付けない、やっつける、広げないことが重要」と話す。

集団発生を防ぐには、高齢者福祉施設などの対応も欠かせない。国や自治体は特別の対応マニュアルや予防チェックリストを作成し、活用を呼び掛ける。厚生労働省が10月に作成した「介護現場における感染対策の手引き」はノロウイルスの感染を広げないよう、食器・環境の消毒と嘔吐物などの処理を促す。食中毒を防ぐポイントとして調理する人の健康管理、作業前などの手洗い、調理器具の消毒を挙げる。

高齢者が老人ホームや介護施設に入居する場合、感染対策が万全かどうかを確かめたい人もいるだろう。ところが新型コロナウイルスの感染拡大で、一部の施設は現地での見学を中止し、オンラインによる見学に変更している。

高齢者施設などの検索サイトを運営するLIFULL senior(東京・千代田)は、オンライン見学が可能な施設を検索できる機能を導入。同社のスタッフがオンライン見学にパソコンやスマートフォンを介して「同行」するサービスも始めた。入居に際し確認ポイントを第三者の視点からアドバイスする。

ウイルス性胃腸炎は細菌性に比べ重症化しにくいとはいえ、高齢者、幼児などは命に関わることがある。健康な人も手洗いの励行などで自らが感染源にならないよう心掛けたい。

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ノロウイルス 集団発生も

政府のまとめでは年間の食中毒患者の約半数はノロウイルスによるもので、うち7割は11月~2月に発生している。この時期の感染性胃腸炎の集団発生例の多くはノロウイルスによるという。ノロウイルスが冬に流行しやすいのは、低温で乾燥した場所で長く生きられるためだ。

感染から発症まで潜伏期間は24~48時間で、吐き気や嘔吐、下痢などの症状が1~2日続く。感染しても発症しない人や軽い風邪のような症状で済む人もいる。症状が治まっても1週間~1カ月はふん便中にウイルスが排出されるため要注意だ。ノロウイルスは新型コロナウイルスなどと感染経路が重なり、マスク着用や手洗いなど予防策も共通する。一方、アルコール系除菌グッズはノロウイルスには効果がないという。

(西村正巳)

[日本経済新聞夕刊2020年12月2日付]

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