3Dプリンターで能面作った 複雑な形状、16時間で完成
モノの複製ができる3D(3次元)プリンターがブームという。アイデアを形にできるのが受けているそうだ。誰がどんなものを作っているのか。最近の3Dプリンター事情を探った。
Tsukasa(つかさ)さんはデザイン専攻の大学院生。3Dプリンターで作品を作りネットで紹介している。最近では、壁登りのスポーツ競技、ボルタリング用に背中にかつぐ掃除機を自ら設計して作った。手や足をかける「ホールド」と呼ばれる石の上面の汚れを取るものだ。
「欲しいと思ったものをすぐ形にできる。製作はプリンターに任せ、設計作業に集中できるのがいい」。マスク不足が世間で問題になったときには、プラスチック製の「PITATT(ぴたっと)3Dプリントマスク」をデザインし、作成に必要な3Dデータを無償公開したという。
デザイナーでドローンレーサーでもある白石麻衣さんがマシンの改良のために使い始めたのは3年前。ドローンにカメラを載せる土台や通信用アンテナを固定するカバーなどを自前で設計するほどだ。
3Dプリンターを自宅に1台所有するが、印刷精度が高い最新版を買う予定だ。普段用では携帯電話スタンド、子供のおもちゃなども作る。「家の中のちょっとした小物なら作れます」(白石さん)
3Dプリンターに出力するには縦と横、奥行きのある3次元データが必要で素人には敷居が高かった。ところが「新しいiPhone12などでは簡易的な3Dスキャナー機能が標準装備され、3Dプリンターがぐっと身近になりそう」。白石さんは予想する。
3Dプリンターには2万~3万円の低価格品から数千万円する産業用まで様々。熱で溶かした樹脂を積層して造形する方法が主流だ。国内需要は年々増え、2020年で1万台前後との予測もある。1割前後が家庭用だ。数年前は20万円前後していた機種が量産効果により2万~3万円台に下がり、消費者にも手が届きやすくなってきた。
一足先に普及した米国では日曜大工のツールとしての地位を確立し、ひな型の3Dデータを無料ダウンロードできるサイトもある。初心者がデータを一から作るのは至難だが、既製のものがあればサイズを微調整するだけで済む。
記者は小学生のころから工作が大の苦手。しからばと思いついたのが、往年の人気ロボット玩具「マジンガーZ」の超合金モデルの複製だ。
ただ、マジンガーZのコピーを紙面で紹介するとなると版元の了解が必要だ。著作権者に相談したが「3Dスキャナーでデータを取るのはダメ」と言われ断念。そこで思いついたのが能面だ。知人で能面作りを趣味にしている建築家の松原忠策さんに相談し、お手製のお面を借りた。
制作歴7年の松原さんはコンテストでの入選経験もある。松原さんが言うには「能面制作では室町時代の観阿弥・世阿弥らが確立した能面の形を忠実に後世の人が模倣してきた歴史がある」。「写し」というのだそうだ。
松原さんは代々受け継がれれてきた能面の断面図を見せてくれた。こうした設計図や本物を見ながら能面師は制作するのだという。
能面には著作権がないのか。著作権問題に詳しい弁護士の福井健策さん(骨董通り法律事務所)に聞くと、「著作権その他の権利が能面に発生する可能性はごく低い」との答えが返ってきた。
製作は3Dプリンター販売のサンステラ(東京・豊島)に依頼した。お面を3Dスキャナーで読み取りデータを作成。プリンターを設定してスタートボタンを押すだけ。しかし能面の形状が複雑なため、通常なら数時間で完成するところが16時間かかった。「手作りなのでデータ量が膨大」と同社部長の和田裕介さんは話すが、うり二つの複製品ができた。
松原さんに見せると、「色付けすれば本物そっくりになる」と感心することしきりだった。複製でも十分楽しいが、自前で3Dデータが作れるともっと楽しい創造的な世界が広がるのだろうな。
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SNS投稿 著作権に注意
3Dプリンターでも基本的に紙のプリンターと同じで、自分の楽しみのために複製(コピー)するなら違法性はない。著作権侵害など法的な問題が生じる可能性があるのは私的利用の範囲を超える利用だ。
例えば、無料ダウンロードサイトで取得した3Dデータでモノを作り、インスタグラムなどのSNS(交流サイト)で出所を明示せずに紹介した場合など、データの提供元からクレームがつく可能性がある。
「既存のデータを引っ張ってくる際は、利用規約や同意内容に抵触しないかよく注意して欲しい」と弁護士の福井健策さんは助言する。
(木ノ内敏久)
[NIKKEIプラス1 2020年11月28日付]
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