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時間逆行、謎に満ちた映画「テネット」 文学者の視点

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NIKKEI STYLE

クリストファー・ノーラン監督の新作映画「TENET テネット」が公開から2カ月以上たっても上映が続いている。本作の魅力について文学の視点から2人の識者に語ってもらった。

自身からの任務への誠実さ 作家・古川日出男氏

クリストファー・ノーラン監督には壮大な野心があったのだと思う。彼はたぶん「時間を目に見せることは可能か」と問い、これに「逆行する時間を具体的なイメージ(アクション場面など)で示せれば、できる」と自答した。さすがの才覚だなと感心してしまう。が、ここで問題が生じる。

そんな撮影は可能なのか。実現できるのか。

ここには二つの要素がからむ。まずは制作資金の調達力などの力。幸い人気監督のノーランにはそれがあった。それから撮影環境。じつは「力があれば、環境あり」であって、こちらも具現化できた。なにしろ彼とそのチームは、従来は〈逆回し撮影〉には適していなかったカメラを製造元の協力も得て改良してしまった。つまり機材の開発まで行なったのだといえる。

大胆極まりないプロセスである。通常であれば「新しいテクノロジーが映画産業に投じられた」から、映画人たちは新しい撮影や上映の形態に挑む。まず最先端の技術ありき、だ。なのに本作の監督兼脚本兼プロデューサーのノーランは、自身のビジョンからのいわば「トップダウン方式」で機材・技術を産み落とさせた。そうした徹底は「テネット」全編を覆っている。

さて、ここからはネタバレとなるので注意されたい。この映画「テネット」の物語は「最終的なビジョンを持った未来の自分に、過去の自分が操作される」というものである。スパイである主人公は、地球規模のとある組織にスカウトされて、その秘密組織の下っ端であるかのように見える。が、その組織の創設者は未来の自分だ。つまり、未来の自分が過去の自分に向けて「トップダウン方式」のミッションを遂行させているのである。

これは「テネット」制作法と同じである。ノーランは二重の意味でプロセスを逆行させた。その誠実さが本作の支柱となっている。

内なる世界へつなぐ符牒 文芸評論家・陣野俊史氏

数年前、大学の授業でトッド・マガウアンの『クリストファー・ノーランの嘘』(井原慶一郎訳、フィルムアート社)という本を精読した。ノーラン作品を精神分析や哲学の理論で解釈した本。彼の映画は一見謎に満ちていて、観客は自分に得意な方法で謎解きに参加したくなるのだ。

話題の新作「テネット」も謎めいている。時間の概念をめぐって映画が作られているためだろう、戦闘シーンでは人も車も弾丸も部分的に逆走する。理解には物理学の素養が必要で、解説は私の手に余る。

ただ物語全体は、第3次世界大戦を防ぐという点で括(くく)られていて、わかりづらいわけではない。いわゆるスパイ映画だ。登場人物たちは諜報(ちょうほう)員で全力で闘うが、それが世界平和とどう結びつくのか、終わり近くまでわからない。全体はわかっているのに、リアルな細部がいかに繋がるのか、観客はハラハラ待機させられる。

私は文学を専門としているので、文学の側から映画に接近しよう。登場人物たちが身分を何度も確認する場面で符牒(ふちょう)として使われる言葉がある。「私たちは黄昏(たそがれ)の世界に生きている」と言えば、もう片方が「そして夕暮れになると友達はいなくなる」と答える。

これはアメリカ19世紀の詩人、ホイットマンの詩。映画を観終わってから私は『草の葉』を読んだ。アメリカ、戦争、肉体、性と生と死について、ホイットマンは夥(おびただ)しい詩を残した。南北戦争に熱狂した。そしてふいにある詩に捉えられる。「君がたとい誰であれ、君は夢の生を生きてはいないか、現実だと思い込んでいるこれらのものが君の足と手の下から溶けて消えてしまいはせぬか」(『草の葉』、岩波文庫中巻、151頁(ページ))。

ホイットマンは単なる符牒ではない。「テネット」の内なる世界へと私たちを直接つないでいたのだ。

[日本経済新聞夕刊2020年11月24日付]

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