カジダンへの道 MBAよりPTA、地域活動で学んだ組織
NPO法人コヂカラ・ニッポン代表 川島高之氏
連載のテーマが家事だと聞いたとき、地域との関わりにも触れたいと思いました。私にとって地域活動は人生の一部、家のことそのものになっているからです。
忙しくてご近所付き合いに手が回らないという話を聞きます。私自身は子どもの存在が地域デビューのパスポートになりました。息子の送り迎えで保育園へ行くついでに子どもたちと駆けっこ遊びするうち、地域の皆さんと縁ができて関わるようになりました。
思い出深いのはやはりPTA活動。息子が小中学校のとき会長を務めました。「大変だったでしょう」と言われますが、「メリットばかりですよ」と返していました。顔見知りが増え、子どもの情報が自然と耳に入ります。私が子ども好きというのはありますが、学校での息子や子どもたちの姿をみるのは楽しいものでした。
仕事にも生きました。PTA会長は保護者や先生、町会長といった多くの関係者の意見を聞き、物事を決めて前に進める「組織マネジメント」が求められます。これがとにかく大変。共通言語も自由に使えるお金もほとんどない。上司と部下の関係があり、命令できる職場と違います。ビジネスの発想を持ち込もうとして、反発されたのは苦い記憶。難しい環境で組織運営の感覚を磨けました。私はよく「MBA(経営学修士)よりPTAだよ」と言ったものです。
実はPTAだけでなく、少年野球のコーチにも手を広げていました。野球好きの私には趣味。息子が関心を持って野球を始めてくれたので子育てともいえる。地域の知り合いが増え、体を動かすので健康にもいい。一石何鳥にもなりました。息子と始めた朝練にチームの仲間も加わって汗を流した日々は忘れられません。楽しいを通り越して生きがいでした。
子育てでも地域で結んだ縁に助けられました。PTAのママ友、野球のパパ友、地域の先輩が代わる代わる息子をフォロー。私が困ったときも相談に乗って解決に導いてくれました。家族ぐるみで旅行に出掛ける仲間もでき、楽しい時間を過ごせています。
夫婦の役割分担でいうと、地域との関わりを楽しみすぎて、他の家事とのバランスが欠けていたかもしれません。料理や掃除の多くを引き受け、私の地域活動を許してくれていた妻には頭が上がりません。その妻のおかげもあって地域や子どもと接する時間を持てたのは幸運でした。私の今のNPO活動にもつながっています。
あまり広まっていませんが、私は地域活動に熱心な父親を「イキメン」と呼んでいます。子育ての悩みを抱え込む「パパうつ」といった言葉も聞くようになりましたが、地域との関わりが心を軽くしてくれるかもしれません。
1964年生まれ。慶応大学卒業後、三井物産に入り関連の上場会社社長に。家庭と仕事の両立を実践し「元祖イクボス」と呼ばれ、講演多数。著書に「職場のムダ取り教科書」など。
[日本経済新聞夕刊2020年11月24日付]
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