鍋でふうふう、具材とともに 長野・松本のとうじそば

2020/11/19
「福伝」のつゆはしょうゆベースで、鳥肉やキノコ、山菜などが豊富
「福伝」のつゆはしょうゆベースで、鳥肉やキノコ、山菜などが豊富

ふうふうしながら食べる温かい麺類は冬の楽しみの一つ。長野県松本市の奈川地区の郷土料理「とうじそば」は「鍋×そば」という独特の食べ方が人気だ。野菜や鳥肉、キノコなど豊富な具材も楽しめ、体の奥から温まる。健康的な味わいを求め、山あいの集落を訪れる観光客も多い。

奈川地区は小説や映画でも有名な「野麦峠」に近い山あいにある。松本市の市街地から細く蛇行する山道を車で約1時間。標高は1000メートルを超え、冬の寒さは厳しい。古くからソバの栽培が盛んで、とうじそばも地域住民の暮らしの中から生まれた。

同地区でとうじそばを提供する「福伝」を訪ねた。席に着くとまず、つゆと具材がたっぷり入った鍋が卓上コンロに置かれた。ざるに小分けされたそばを柄の長い「とうじかご」と呼ぶ小さいかごに入れて、熱いつゆに浸す。頃合いを見計らって、つゆと具材を入れたおわんに取って食べる。

「野麦峠」にも近い山あいにある奈川地区(長野県松本市)

多くの場合、つゆはしょうゆベースで、具材には鶏や鴨(かも)の肉のほか、季節に応じたキノコや山菜などを使う。食欲をそそる匂いのつゆを口に入れると、しっかりした味わいが広がった。店主の池田善寿さんは「少量ずつ温めて食べるので通常の温かいそばよりも麺が伸びにくい」と説明する。

「とうじ」は浸して温めるや、つゆに放り込むといった意味があるという。冬は氷点下も多い同地区では体が温まる料理として昔から一般家庭で親しまれてきた。家庭によって味付けや具材が異なり、「皆が集まる祝いの席などでもよく出てくる」。

「とうじかご」にそばを入れ、つゆに浸す(ちゅうじ食堂)

福伝に近い「ちゅうじ食堂」も訪問した。こちらもかつお節や昆布などで取ったダシのつゆに、鴨肉や野菜、キノコ、山菜などがふんだんに入っている。そばは通常のもりそばの2人前以上といい、料理長の百瀬建容さんは「とうじそばは通常のそばより食が進む」と話す。そばを食べ終えた後のつゆを使い、別注文でおじやにする人もいるという。

「とうじそばを食べようと、東京や名古屋から毎年訪れる人もいる」と百瀬さん。ちゅうじ食堂は夏場には冷たいつゆに付けて食べる「冷やしとうじそば」も提供する。

奈川地区の近隣にはスキー場のほか、白骨温泉などの温泉地も多い。冬の長野の楽しみ方の一つとして、とうじそばを味わってみてはいかがだろうか。

<マメ知識>そば入れるかご 特徴
昼夜の寒暖差が大きく、水はけの良い土地が多い長野県は「信州そば」で全国的にも知られる。「戸隠そば」に代表される名所も多く、貴重な観光資源にもなっている。「とうじそば」は奈川地区だけでなく、同県松本市の市街地でも提供する店が少なくない。
とうじそばはそばを入れるかごとして「とうじかご」を使うのが大きな特徴だ。最近はつゆや具材のほか、とうじかごをセットにした商品もインターネット通販などで売っている。

(松本支局長 大林卓)

[日本経済新聞夕刊2020年11月19日付]

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