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海外に働きに行く人々の側に立って考えることが共存のヒントになる  イラスト・よしおか じゅんいち

外国人材は受け入れても移民は受け入れない。現政権の立場である。しかしそれは「永住を意図として移り住んだ人」と移民を定義するからで、日本に暮らす外国人は約293万人(2019年)に上る。永吉希久子著『移民と日本社会』(中公新書・20年)は、2065年までに移民的バックグラウンドを持つ人口割合は12.0%になるという推計を紹介している。日本は移民社会への途上にある。

出身社会の事情も

19年の改正出入国管理法施行なども契機となり、移民についての本は数多く出版されている。しかし日本は受け入れ国側であるので、移民を労働政策や社会統合の課題として語りがちである。「なぜ海外に働きに行くのか」という点について、彼らの内面や出身社会の事情に迫ったものは少ない。

彼らが外国で働く理由に関する私たち日本人の理解も「お金を稼ぐためでしょ」という表面的な解釈にとどまってしまう。そこで、ここでは海外で働く移民の個人像に迫った本とともに、送り出し側の背景を考えたい。

中島弘象著『フィリピンパブ嬢の社会学』(新潮新書・17年)の著者は、大学院生のころ調査で訪れたパブでミカと出会う。偽装結婚による入国、人身売買を斡旋(あっせん)するヤクザ、別れたい彼と本命の彼などのリスクに立ち向かうミカのバイタリティーがすごい。冒険譚(たん)のように展開される2人のラブストーリーは、著者とミカが結婚するというハッピーエンドだ。

ただし、ミカはたまたま幸運であり、実際には人身売買の犠牲になる女性も多いため、本書を一般化して読むことはできない。それでも、ミカがリスクを承知でチャンスをつかみにいく姿は、お金のために出稼ぎに来ているといった「フィリピン人ホステス」に対する一般的なイメージを大きく変えるであろう 細田尚美著『幸運を探すフィリピンの移民たち』(明石書店・19年)は、「幸運探し」をキーワードに、サマール島の人びとの移動を彼らの世界観で捉えており、移民を合理的経済人として見ることに一石を投じている。移動によって得た幸運は、物質的なものも含めて神からの祝福であり、それを分け与えることが人とのつながりを造る。富の偏在が著しく不確実な時代、運試しの移動は増えるのかもしれない。

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