ラー油たっぷりで香ばしい 千葉の勝浦タンタンメン
海産物が豊富な千葉県南東部の勝浦市。地元で長く親しまれているのがラー油をたっぷり使った「勝浦タンタンメン」だ。駅から遠く離れた立地にもかかわらず行列が絶えない店も多く、県内屈指のご当地グルメになっている。
スープはしょうゆベースで、みじん切りのタマネギとひき肉を使用するのが一般的。各店の工夫によって味は様々だが、総じてピリ辛で香ばしい味わいが特徴だ。
1954年創業の「江ざわ」の初代店主、江沢勉さんが考案した。中国の担々麺によく使う芝麻醤(チーマージャン)は当時入手しにくかったため、ラー油で代替し、たどり着いた味という。冷えた体を温めようと食べに来る地元漁師らを中心に、口コミで市内に徐々に広まっていった。
江ざわは現在、3代目の正紀さんらが店を切り盛りし、伝統の味を守り続けている。スープを飲むとピリッとしながらも辛さはすぐに引き、さっぱりとした味わいだ。ラー油をたくさん使っているが、飲み干してしまう人も多いという。
辛い味をおいしく楽しむことは地元の子どもにとっては大人への一歩。そんな小さな頃の憧れであるタンタンメンの店を大人になって構える人もいる。
JR勝浦駅から車で15分ほどの場所にある人気店「松野屋」を営む岩瀬恵治さんもその一人。ここではひき肉を細かく刻み、スープに溶けるまで煮込んだコクのある味わいを引き出している。激辛のトウガラシを使ったものや、麺5玉が入った大食いチャレンジメニューも用意している。岩瀬さんは「定番の味を大事にしながら、タンタンメンを自分なりの食べ方で楽しんでほしい」と話す。
電車で来た観光客が帰り掛けに立ち寄るなら、駅チカの「欅(けやき)」もお薦めだ。しょうゆではなく、中華ジャンベースのスープを使用。「タンタンやきそば」「タンタンつけ麺」といったアレンジメニューも人気だ。いろいろなメニューを1品ずつ注文し、シェアしながら食べる観光客グループも多いという。
勝浦タンタンメンは2015年に開いたご当地グルメのイベント「B-1グランプリ」で、地元有志による「勝浦タンタンメン船団」が優勝したことなどを受け、全国的に知名度が高まった。近年はエースコックやロッテリアなど大手食品メーカーや外食チェーンも相次ぎコラボ商品を展開。「全国区の味」へとさらに進化を続けている。
担々麺は19世紀の中国・四川で発祥した。麺やタレをてんびん棒で担いで運び、各地で売っていたことから、名称に「担」が付いた。日本では人気料理家の陳建民氏が日本人好みにアレンジしたことで、一気に普及したといわれる。全国各地では勝浦タンタンメン以外にもご当地仕様の担々麺が多く誕生している。広島市内ではスープがなく、タレとあえて食べる「汁なし担々麺」、神奈川県小田原市周辺ではあんかけのようなスープが特徴の「小田原系担々麺」が地元なじみの味だ。
(千葉支局 出口広元)
[日本経済新聞夕刊2020年11月12日付]
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