赤は活発、青は理知的… 配色の効果で衣食住を豊かに
遠出しづらい日々が続き、記者(29)はストレスがたまっていた。在宅では慌てず冷静に働きたいと思い、色の効果でリラックスしようと、配色の基礎を学ぶことにした。
初心者が最低限おさえておけばよい知識は何か。「マカロン配色見本帖」の著者で、視覚デザイン研究所(東京・千代田)の早坂優子さんに聞いてみた。
早坂さんによると、色相から連想されるイメージへの理解が大切だという。色相とは色の三属性の一つで、赤や青など色を特徴づける色みのこと。例えば緑は「平和な安らぎ」「自然」を想像できるほか、山など実際の風景と重ねることもできる。早坂さんは「色に付随するイメージは日常生活で感じたものと大きく外れません」と話す。
色の三属性の残りは明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)。この2つで決まる「トーン」を意識することも重要だ。色相の中で最も鮮やかな純色に白みが加わった明色のトーンは優しい印象を与える。逆に灰色が加わる濁色のトーンは落ち着いた印象を与え、黒みが入る暗色のトーンは格調の高さを演出できるという。
同社社長の内田広由紀さんは「結婚パーティーなどハレの舞台で着る衣装は白みが入ったトーンが似合うのに対し、経験豊かなテレビのキャスターは黒が入ったトーンが似合うなど、服装選びや対人関係にも生かせます」という。
助言に基づき生活を色で改造してみた。まずは住まいから。自宅の机にはピンクや茶色など様々な色の小物が並んでいる。そこで、デスクマットや書類ケースなどの事務用品をリラックス効果の高い青色で統一した。
ドライフラワーや博多人形など家にあった青色のインテリアを机の上にずらりと並べ、隣に置いている真っ赤な冷蔵庫は青色の和紙で覆った。視界を青で埋め尽くして仕事をすると、長時間パソコンの画面に向き合っても集中力を保てる実感があった。
自分に似合う衣服の色も気になった。パーソナルカラーの診断や服選びのアドバイスなどを手がけるユースタイリング(横浜市)を訪れた。
「仕事先で好感が上がるよう、スタイリッシュな印象を身に付けたい」などの要望を、アドバイザーの桐本和希さんに伝え、診断が始まる。顔の前に色の付いた布を当てながら、肌や瞳の色とマッチするカラーを選んでもらう。
診断の結果、顔は青みがかかった「ブルーベース」の特徴が強く、肌の質感や顔のパーツなどからパステルカラーの服が似合うと分かった。ジャケットの下は夏なら白のTシャツ、冬は明るいグレーのセーターが似合うそうだ。
ボトムスはこれまで好んで着ていたベージュのチノパンよりもダメージジーンズなどが適していること、敬遠していた淡いラベンダー色が合うなど新たな発見も多かった。「自分に似合う色のタイプが分かると、同じタイプでファッションを統一させられ、不釣り合いさはなくなります」(桐本さん)
「住」「衣」ときたので最後は「食」だ。普段の晩酌を楽しくするランチョンマットを紙で作ってみた。
福岡で勤務していたときに通っていた屋台から、看板の緑とのれんの赤、木の骨組みの焦げ茶色を使い、ラーメンやおでんの出汁を連想させるベージュを加えて格子柄(タータンチェック)をデザインした。「温かいラーメンの感じを強くするためベージュの面積を大きく」など、視覚デザイン研究所の早坂さんの指導も受けながら完成した。
仕事を終え、マットを敷き晩酌を始める。店主や常連客との楽しい会話、おでんなど熱々の料理はないが、いつもよりほんわかした気分になり芋焼酎のロックが進んだ。
色彩の知識はウェブデザインやアパレル関係の専門知識と考えがちだったが、日常生活にも役立つヒントが多いとわかった。衣食住に関わる色を工夫したら、心のゆとりや自己肯定感も芽生えた。彩り豊かな人生を送るために、今後も色を自由自在に操ってみたい。
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色の活用 学習にも効果
受験や資格試験の勉強などで文字やアンダーラインの色を使い分け、ノートを整理する人も多い。色の効果を科学的に検証し、製品開発に生かす動きも出てきた。
三菱鉛筆は通常より発色が濃いインクを開発。立命館大との共同研究により、通常の黒インクを使うよりも単語の記憶力が高まるなどの結果が出た。詳細なメカニズムは解明されていないが、濃い方が認知処理能力を高める可能性などがあるという。濃いインクを搭載して今年発売した「ユニボール ワン」は受験生らの間で人気が高いという。人が色を感じるメカニズムの研究が進めば生活がより便利になるかもしれない。
(荒牧寛人)
[NIKKEIプラス1 2020年10月31日付]
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