そこで注目されるのが、カテーテルを使ったリンパ漏治療法だ。帝京大学病院で2013年から積極的に進め、これまでに140症例を実施している。

針を足の付け根のそけい部のリンパ節に刺し、造影剤を注入。リンパ漏を起こしている部位をX線で探し出す。カテーテルを入れて、漏れを起こしている部位に金属コイルを置き、封入剤を注入して塞ぐ。治療時間は1~2時間ほどだ。開胸や開腹をする従来法と比べて患者の負担が少ない。日帰りできる場合もあり、術後はほぼ確実にリンパ漏が止まるという。

帝京大学医学部附属病院の山本真由医師はリンパ漏患者にカテーテル治療を行っている=同病院提供

東京慈恵会医科大学病院では、手術後のリンパ漏患者には外科医が再手術をするのが一般的だった。数年前からはカテーテル治療をする医師が対応している。ほかの病院で手術を受けた患者の相談も始めており、15年からこれまでに50人を治療した。治療を担当する蘆田浩一医師は「リンパ漏のために再手術を勧められたらカテーテル治療も選択肢のひとつと考えてほしい」と話す。

もう一つ、正しく診断されないという課題もある。病院への受診をためらったり、受診しても「性感染症」や「尿漏れ」と誤診されていたケースもあったという。特に「骨盤内のリンパ節を切除手術後に多いのは陰部で起こるリンパ漏。恥ずかしさから受診をためらう人が多い」(JR東京総合病院の原尚子医長)。

手術以外にも、数は少ないが生まれつきリンパ漏を患う人もいる。特に陰部から漏れている場合などは、本人も周囲も尿漏れと勘違いして放置してしまうこともあるという。ある40代女性は30年間おむつがかかせなかった。陰部が腫れ、痛いが治らないとあきらめていた。帝京大病院を受診し、リンパ漏と診断されてカテーテル治療をしたところ完全に治ったという。

ただ、まだリンパ漏の対応ができる病院は多くはない。このため、JR東京総合病院と帝京大病院は連携し、リンパ漏の原因部位にあわせ、互いに患者を紹介し合っている。

原因部位が体表に近い場合などは、JR東京総合病院が担当し、静脈とリンパ管をつなぐことでリンパ漏を治す「リンパ管静脈吻合(ふんごう)術」をする。体の深部や心臓近くの場合は帝京大病院に患者を紹介し、カテーテル治療を実施する。JR東京総合病院の原医長は「患者の状態にあった方法で対応できる。一人で悩まず、相談してほしい」と話す。

◇  ◇  ◇

医師間の認知度向上に課題

国内にいるリンパ漏患者の推定人数は不明だが、例えば、食道がんの手術後にリンパ漏を発症する頻度はおよそ3%との報告もある。

医師の間でもリンパ漏の認知度は高くない。JR東京総合病院の三原医師は「学会で発表しても知らない医師が多い。患者だけでなく、医療従事者にも知ってもらうことが大切だ」と強調する。

帝京大学の山本真由講師は、リンパ漏をカテーテルで治療できる医師を増やすため、全国の医療機関に出向き、医師へのトレーニングを実施している。さらに「リンパ友の会」という研究会を設立。放射線科、小児科、形成外科で議論し、リンパ漏を含むリンパ疾患への啓発と連携を目指しているという。

リンパ漏の多くの治療は保険診療が可能だが、一部できないものもある。リンパ漏を引き起こしているリンパ管を見つけ出すのに必要なリンパシンチグラフィーは、2018年に保険適用され、受けやすくなった。

(満武里奈)

[日本経済新聞朝刊2020年10月19日付]

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