つらい腹痛、下痢… 大腸疾患が中高年に増える理由
腹痛や下痢などつらい症状が起きる大腸疾患。食の欧米化などによって発症する人が増えている。種類は多く原因不明のものもあり、それぞれ対処方法が異なる。疾病の特徴をしっかり押さえ予防につなげたい。
大腸で発生する病気は大きく分けて、「炎症」「腫瘍」「機能障害」の3つがある。なかでも、かかりやすくて種類も多く、身近な大腸疾患として捉えられているのが炎症によるものだ。
大腸の炎症には、原因が明確なものと、明らかになっていないタイプがある。ウイルスや菌が引き起こす胃腸炎などの感染性や、特定の薬で発症する薬剤性腸炎は、原因が明確なものの代表例だ。
他には大腸憩室(けいしつ)炎があり、高齢者など患者数が増加している。憩室は腸壁の一部が小さな袋状に飛び出した隙間のこと。そこに便が入り込んで細菌感染すると炎症が起こる。東京医科大学病院(東京・新宿)の福沢誠克准教授によると「患者数の増加は、食生活の欧米化で便秘しやすくなったことも要因」という。便をいきむときにかかる腹圧で憩室が発生しやすくなる。
感染性など原因が特定される炎症は、根本の要因を治療する。大腸憩室炎は内視鏡で確認し、抗菌薬を使い安静にして改善につなげる。
原因が特定されない炎症には、クローン病と潰瘍性大腸炎があり炎症性腸疾患と呼ばれている。ともに、下痢や激しい腹痛が頻繁に起こり、血便、体重減少などが見られることもある。腸の炎症は確認できるが、どのような過程を経て炎症が起きるのか、しくみは明らかになっていない。
炎症性腸疾患は欧米で多い病気だが、国内でも増加。この30年でクローン病の患者は8倍の約4万人、潰瘍性大腸炎は6倍の約12万人になった。ともに国から医療費が助成される指定難病だ。おおさわ胃腸肛門内視鏡クリニック品川(東京・品川)の大沢晃弘院長は「指定難病に認定されていない軽症者を含めると患者数はもっと多い」と語る。
クローン病の特徴は、10~20代の若い世代に多いこと。主に小腸や大腸で炎症が散発的に広がる。炎症は腸壁の深い層にまで達する。一方、潰瘍性大腸炎は20~30代に多いが、福沢准教授によると「最近は中高年になって発症する例が目立ち始めている」。炎症は原則、大腸に限られ広い範囲に連続して発生し、腸壁の浅い層にとどまる。
クローン病、潰瘍性大腸炎ともに、内視鏡検査、X線造影検査、病理組織検査などで診断する。ともに抗炎症作用のあるステロイド剤など内服薬による治療が行われる。症状が悪化して大量出血した場合などは手術が必要になる。
また、クローン病では脂肪分を多く含む食品を制限するなどの栄養療法も進める。潰瘍性大腸炎は、過労やストレスで症状が悪化しがちなため、無理な生活をしないように心がける。
大腸疾患には腫瘍もある。がんとポリープに分けられる。大腸がんは、すべてのがんの中で罹患(りかん)率と死亡率が上位3位に入る。しかし、早期発見で進行を抑えられる可能性は高く、初期のステージ1で治療すれば5年生存率は9割以上になる。ポリープは良性が多いが一部はがんになることもある。福沢准教授と大沢院長はともに、大腸がん検診の早期受診を勧める。
その他の疾患としては、過敏性腸症候群と呼ばれる腸の機能疾患がある。主な症状は腹痛を伴う下痢や便秘だ。ストレスが関係すると見られている。
大腸疾患には原因が不明なものもあるが、適切な治療で抑えることができる。まずは生活習慣を見直し、大腸に負担をかけないようにすることが欠かせない。
(ライター 仲尾匡代)
[NIKKEIプラス1 2020年10月17日付]
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