海の幸満載 三重・鳥羽のハンバーガー「とばーがー」
「とばーがー」は三重県鳥羽市公認のご当地ハンバーガーだ。万葉集に詠まれる伊勢志摩の海女文化の中心地。アジやタコ、カキなど具材はより取り見取りだ。ブームの浮き沈みを乗り越え、海の幸を生かした10種類以上の創作バーガーが個性を競い合う。
市南部の相差(おうさつ)地区。カフェ「オウサツキッチン0032」は女性の守り神「石神さん」を祭る神明神社の参道脇にある。「ザコフライサンド」は市場で買い手のつかない規格外の雑魚を1口サイズのフライにした。
雑魚と侮るなかれ。地元の港から日替わりで届くのはマトウダイやスズキ、ヒラメなど新鮮な白身魚。海藻を衣に混ぜ、サクサクの食感に仕上げる。パンは真珠貝を模した「シェル・レーヌ」で有名な鳥羽の洋菓子メーカー、ブランカのもの。地元食材にこだわるメニューを取りそろえ、大勢のリピーターをつかむ。
「鳥羽国際ホテル」の「潮騒バーガー」は鳥羽湾を望むカフェラウンジで味わえる。シラサエビを厚切りベーコンに添えたものと、シラスやアオサノリをハンバーグに添えたものとの2個セットだ。
とばーがーは2007年、街おこしの官民企画で誕生した。認定基準は「地元の食材を使い、作り置きはしない」。長崎の「佐世保バーガー」の成功事例に倣った。11年から2年間、観光課でPRを担当した市職員の木下翔平さんは「とばーがーは離島巡りの楽しみを広げた」と話す。
「たこかつバーガー」は神島の旅館「山海荘」の持ち帰り商品。コロッケに入るタコが大きい。「神島のタコは火を入れても縮まない」とオーナーの山本欽久(よしひさ)さん。宿泊客に出す煮タコの残り汁と潰したジャガイモを合わせ、塩とコショウで味を調える。三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台になった島の観光グルメとして定着した。
菅島の人気弁当店「おかげ屋」の1品は「活鰺(かつあじ)バーガー」。一本釣りのアジを3枚におろし、一晩かけてショウガで臭みを取る。夏は南蛮漬け、冬はタルタルの味付け。店主の中村貴一さんは「新鮮なアジを使いたいので予約制にした」と話す。
「お菓子なバーガー」はバーガーそっくりのスイーツ。洋菓子店「Ciao(チャオ)」のオーナー、宮浜悦子さんの遊び心が光る公認バーガーだ。創作のかき氷が大ヒットし、県外客を増やす中で「『かき氷バーガー』でも公認を得たい」と語る。作り手たちの心意気がブームを下支えする。
お菓子なバーガーは鳥羽市の木に制定されたミカン科のヤマトタチバナの果汁を使う。ユズに似た実は種が多く、独特の苦みがある。そのままでは食用に向かないが、「工夫に工夫を重ね、生チョコに練り込んだ」(宮浜さん)という。
鳥羽商工会議所はブレンド茶や匂い袋など、ヤマトタチバナを使った商品の開発に取り組む。「とばこしょう」はゆずこしょうと酢をミックスさせたような風味が特徴。オウサツキッチンはザコフライサンドの特製ソースの隠し味に使う。
(津支局長 山本啓一)
[日本経済新聞夕刊2020年10月15日付]
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