刺し身に照り焼き、〆はだし汁で 高知の室戸キンメ丼

2020/10/8
「料亭 花月」では最後にだし汁を注ぎ、お茶漬けのようにして食べる
「料亭 花月」では最後にだし汁を注ぎ、お茶漬けのようにして食べる

高知県東部に位置する港町の室戸市。市内の飲食店が街おこしの一環で8年前に考案したのが「室戸キンメ丼」だ。キンメダイを照り焼きにしたり、刺し身にしたりして丼に盛る。この逸品を味わうために四国の食いしん坊を中心に足を運ぶ人が絶えない。

室戸のキンメは大ぶりで鮮度抜群

キンメ丼の生みの親である「料亭 花月」の三代目店主、山村邦夫さんを訪ねた。「2012年のことだった。室戸から近い高知県安芸市が特産のチリメン、四国東側の徳島県阿南市がハモで丼ものを出しており、室戸も名物を出せないかと考え、深海で捕れるキンメダイを素材に決めた」と山村さんは話す。

早速、食べた。ご飯の上に照り焼き6枚、刺し身2枚が鎮座する。刺し身の横にはカンパチやタイ、ハガツオの刺し身が計4枚で、「最初は海鮮丼のように味わって」(山村さん)。しょうゆ皿にワサビを落とし、キンメの刺し身を少し浸してご飯と一緒に頬張る。程良い歯応えで、上品な味わい。他の地魚も肉厚で、申し分のない鮮度だ。

「釜飯 初音」は切り身の白焼きが売り

次に照り焼きを頂く。黄金色に染まったキンメは癖がなく、口内でホロリホロリと崩れる。甘辛さも絶妙。まだご飯が半分残る。そこにキンメのアラで取っただし汁を注ぎ、お茶漬けのようにして食べるのが「花月流」。うまみたっぷりの汁と照り焼きのタレが絡み合う。

キンメ丼を応援する室戸市は現在、花月を含め8店を観光客に紹介する。8店は(1)価格を1700円で統一(2)照り焼きと刺し身をのせる(3)だし汁を付ける――というルールを設ける。このルールの中で各店が個性を競う。

「釜飯 初音」は照り焼きにこだわる。店主の高瀬成浩さんは「ウナギのかば焼きのように串に刺し、白焼きにするのが売り。これでキンメの若干の生臭さが消える」と語る。ここは締めのお茶漬けをしない。アラはエビの味噌汁のだしに使う。両店とも室津漁港のすぐそば。店主は港に毎日通い、新鮮で大ぶりのキンメや地魚を仕入れる。

宿泊客限定でキンメ丼を出す「民宿 徳増」は市中心部から離れた佐喜浜地区にある。宿は佐喜浜漁港の漁師から直接買い付ける。水揚げした地魚を丼にすぐ盛り付けるため、鮮度抜群だ。

新型コロナウイルスの影響も癒え、観光客が戻り始めた。キンメ丼を供する店は現在、週末になると満席になることも少なくない。市は「台風など海の状況もあるので、来店前に電話で営業を確認してほしい」としている。

<マメ知識>港から漁場が近く新鮮
キンメダイは一般的に水深200~800メートルの深海に生息する。国内の産地としては静岡県伊豆沖や千葉県銚子沖が有名だが、ともに港から漁場まで遠い。西日本有数の水揚げを誇る室戸は海岸付近の海底が急斜面になっており、水深の深い漁場が近い。港から10分ほど船に乗れば、水深500メートルほどの深海域にたどり着く。漁船は深夜に出港して必要な分だけ捕り、午前中には帰港する。この「日戻り」という漁法により、地元飲食店にその日のうちにキンメが届くようになっている。

(高知支局長 保田井建)

[日本経済新聞夕刊2020年10月8日付]

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