怒り・孤独…コロナ下の思考の軌跡 監督5組が映像化

中野量太監督『デリバリー2020』は社会の空気を風刺する(C) 2020 Transformer, Inc.
中野量太監督『デリバリー2020』は社会の空気を風刺する(C) 2020 Transformer, Inc.

コロナ禍の緊急事態宣言下で制作されたオムニバス映画「緊急事態宣言」が配信中だ。監督や俳優らは何を思い、何を考え、どう形にしたのか。思考の軌跡が作品に刻まれている。

真利子哲也、三木聡ら、5組の人気監督が参加した同作はアマゾンプライムで配信中だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は4月に緊急事態宣言を発し、外出自粛は1カ月以上続いた。この間の記憶や社会の変化を映像として具現化する試みといえる。

家族でも集まれず

「僕はゆっくり練って脚本を書く。しかも常に準備をしておきたいタイプなので本来なら断るが、コロナ禍で感じた『怒り』をぶつけたくて引き受けた」。1作目「デリバリー2020」の中野量太監督は話す。

娘(岸井ゆきの)の誕生日を祝うために離れて暮らす母(渡辺真起子)や息子(青木柚)がオンラインで集まる。画面越しにケーキを囲む3人。父は午後7時に帰宅するというが――。ビデオ通話システムでおなじみとなったバストアップの映像で構成される。撮影は感染防止対策をしながら1日で終えたという。

「これまでで一番すっきりした作品」と語る中野量太監督

家族で食卓を囲む、誕生日を祝う、葬儀をするといったモチーフは「湯を沸かすほどの熱い愛」などの過去作にも通じる。しかし「コロナ禍が背景だとかなり違う物語になった」という。家族であっても距離を取らなければならない状況を冷静に見つめるブラックコメディーの趣で「これまでで一番すっきりした作品」と中野監督。

映画の配給や美術を手掛けるトランスフォーマーの制作部ディレクター、加藤慎一郎氏が発起人となり、5月に企画された。「3月末に配給が止まり、4月には制作現場も止まった。待っていても何も始まらない、自分から仕掛けようと短編のオムニバス映画を考えた」と振り返る。後に劇場公開するとしても、まずは配信でとアマゾンに声をかけた。通常なら企画から撮影、公開まで2年かかるが、今回は配信までわずか約3カ月で実現した。

1作目は室内劇だが、2作目の園子温監督「孤独な19時」は屋外でも撮った。緊急事態宣言が解除されるタイミングもあり可能になった。オンラインのイベントに登場した園監督は「(広大な空き地のような)人のいないロケ場所を選べば撮影しやすい場所はあったが、今の日本に近い状況を描くために住宅街を選んだ」。コロナ収束後また現れた凶暴なウイルスにより厳しい自粛を余儀なくされている男の物語だ。

懸念されたキスシーンもある。主演の斎藤工は同イベントで「ラブシーンは象徴的な濃厚接触の場面となった。恐らく今後は難しくなるだろう。それに気づかせてくれるシーンでハッとさせられた」と振り返った。斎藤は自粛期間中、岩井俊二監督のリモート撮影映画など精力的に活動した。動機は「孤独」だといい「見通しのつかない状況で自分の存在を確かめるためにも色々トライした」。

視聴者の厳しい目

コロナ禍で変わったのは制作側だけではない。作品のレビュー欄には「テンポが悪い」「飽きて何度もやめようと思った」など視聴者の厳しいコメントが散見される。中野監督は「中盤までひき付けられるかがカギだと思い飽きさせない工夫をしたが、短い映像を見慣れている人には響かなかったようだ」とみる。

2時間ほど腰を据えて鑑賞する映画館とは異なり、在宅の配信視聴者は短時間で見せ場を求める。姿勢の違いが身にしみたようだ。

5年後、10年後に振り返ったとき、当時の映画人がどうコロナ禍と向き合ったのか、記録としての価値は小さくないだろう。映画界が急速な変化を迫られる端緒を捉えた作品といえるかもしれない。

(近藤佳宜)

[日本経済新聞夕刊2020年10月6日付]

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