現場の混乱、団結で切り抜ける 異物混入の疑いも解決
ニチレイ 大櫛顕也社長(下)
ニチレイ本社(東京・中央)の1階にあるニチレイコーナー
中国での合弁会社が軌道に乗り、私は本社に戻って海外拠点の管理を担うようになりました。ニチレイでは毎月、各地の工場長が集まる会議があるのですが、海外担当はあまり発言を求められません。人ごとのように感じ、下を向いて工場長たちの話を聞くのが常になっていました。
2001年、会議で不意に私の名前が呼ばれました。物流関係の新規事業を始めろというのです。
スーパーで販売する総菜は一般的に、店舗のバックヤードで加工して販売します。しかし同じ商品を別々の場所で作るのは効率が悪い。流通大手の依頼を受けて、ニチレイは総菜の加工を受託して店舗ごとに届ける事業を始めようとしていました。ポテトサラダなどをまとめて作り、個包装までして出荷します。
中国での経験が買われたのでしょう。新しい仕事ができる喜びを胸に、生産と配送拠点を立ち上げるため仙台市に向かいました。
新事業を任され、組織力の大切さを痛感した(2列目中央)
ところが、実際に手掛けてみると、これまでの仕事とは勝手が全く違います。総菜を1日2~3回出荷し、店舗には必ず時間通りに届けなければなりません。生産と配送は24時間体制です。家に帰れず、寝袋で仕事場で寝ることも珍しくありませんでした。
稼働時に研修が間に合わず、他県の工場から人員をバスで送ってもらってなんとか生産にこぎ着けました。会社には迷惑をかけっぱなしだったと思います。
体力も限界でした。簡単な計算をミスするようになり、同僚から今すぐ散髪にいけと言われました。理髪店では髪を切られながら5時間も寝ていたそうです。
ある朝、出勤すると驚きの報告がありました。製造ラインで使う包丁の先端が欠けているというのです。
作り直すと、配送時間に間に合わない可能性があります。仕事を終えた従業員を再び集められるかも不透明で、廃棄すればコストとして跳ね返ってきます。
様々な不安要素が頭に浮かびましたが、迷っている時間はありません。異物混入の可能性がある以上、全てを廃棄して作り直すよう指示しました。他の工場や従業員にも手伝ってもらい、取引先には大きな迷惑をかけずに済みました。
この件以来、当社では画像を使ったラインの管理など、管理体制を見直すようになりました。仙台ではチーム力の大切さを実感しました。新型コロナウイルスが猛威を振るっている今こそ、グループの総合力を発揮しようと話しています。
あのころ……
2000年代には冷凍食品を巡る事件も多発した。02年に中国産冷凍ホウレンソウから基準値を超える残留農薬が検出された。07年にはマルハとニチロが統合してマルハニチロが誕生。08年には日本たばこ産業が加ト吉(現テーブルマーク)を買収するなど再編も相次いだ。