シンガポール ネット飲み会で宅配カクテル1600円
シンガポールは新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きをみせ、ショッピングモールやオフィス街は活気を取り戻しつつある。ところが「夜の街」は別だ。夜10時半以降はお酒を提供できないなど制限が続く。業界があの手この手で生き残り策を探る中、家飲み需要で定着した感があるのが「宅配カクテル」だ。
中心部ブギス地区。外資系企業などが入るオフィスビルのロビー階の「アトラス」は、英系メディアの「アジアのベスト・バー50」ランキングで上位常連の有名バーだ。シンガポールがコロナ対策で職場閉鎖をした4月から、人気のマティーニなどのカクテルをボトルに詰め、宅配や持ち帰り用に販売している。
値段は1本21シンガポールドル(約1600円)から。店内とほぼ同額だ。売れ筋のマティーニなど3本セットは60シンガポールドル。小口宅配は送料がかかるがプロの味を家でも楽しめる。店内飲食が禁止されていた6月までは、オンライン飲み会などで「1日30~60件の注文があった」(アトラス)。あるIT(情報技術)企業は150人の社員向けに瓶カクテルを発注、オンラインでコロナ慰労の乾杯をした。
外出規制の緩和で外食店が再開した後も一定の家飲み需要が続いているのは、政府が「夜の街」の営業に慎重だからだ。多くのバーは再開したものの、アルコール類を提供できるのは夜10時半まで。5人を超えるグループの入店は禁止。大音量の音楽や生演奏も許されない。クラブやカラオケ店など、営業が認められない店もまだある。
ナイトライフの代名詞、クラーク・キー地区はコロナ前は未明まで混雑したが、今や見る影もない。若者に人気のクラブ「ズーク」は7月、にわか仕立てのレストランとして営業を始めた。ダンスフロアに椅子とテーブルを並べ、有名店のグルメハンバーガーを提供するなどして話題を呼んでいるものの、酒類は10時でオーダーストップだ。
9月には規定時刻を過ぎた後にビールをティーポットに入れて偽装販売したとして、中華料理店など3店が営業停止処分となった。「深夜のお酒は家で」の新常態は、当面続きそうだ。
(シンガポール=谷繭子)
[日経MJ 2020年10月5日付]
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