初診解禁、オンライン診療 見えてきた課題と可能性
新型コロナウイルス対応の一環で4月、初診からのオンライン診療が時限的に全面解禁された。何ができて、何ができないのか。医療機関は模索しながら実践を積み重ねている。現場から見えてきたオンライン診療の課題と可能性を探った。
「症状はよくなりましたか」「だいぶよくなったのですが、お薬をもう少しいただきたい」。内科や小児科外来がある多摩ファミリークリニック(川崎市)は5月、オンライン診療を始めた。毎日担当医師が画面越しに患者と向き合う。
LINEのビデオ通話機能を活用する。「再診で利用する人が多く、評判はいい」と大橋博樹院長は語る。発熱外来もあり、「コロナ感染の危険性を減らすため、オンラインへの切り替えを検討している」という。
オンライン診療ではどの疾病でもみることができる。厚生労働省がまとめた4~6月の診療実績によると、「発熱」「上気道炎」「気管支炎」「アレルギー性鼻炎」「湿疹」などの症状で受診したケースがどの年代も多かった。
多くの医師がオンラインで診療できる分野と難しい分野の検証を始めている。たまき皮フ科(大阪府吹田市)の生駒晃彦医師は「皮膚科はオンライン診療が容易と思われているが、実は難しい」と説明する。高精細の静止画像と詳しい問診情報が必要で、「皮膚を触ったり、表面を削って顕微鏡で検査したりしなければわからない場合も多い」。
正確な診断ができない、との懸念から初診での利用に反対意見は根強い。一方、例外もあるとする医師もいる。みいクリニック(東京・渋谷)の宮田俊男院長は「患者が症状を正確に表現でき、健康診断の結果や服薬情報があれば、初診患者でも内科の診察が可能な場合はある」と指摘する。
4月にオンライン診療を始めたMIZENクリニック豊洲(東京・江東)の田沢雄基院長は診療を効率化できると前向きだ。「リアルな対面とうまく組み合わせたい。今後、人工知能(AI)活用と並ぶ診療形態になる」と予測する。
この流れを後押しする動きも出ている。LINEヘルスケア(東京・新宿)は11月、オンライン診療に参入する。全面解禁された後も、オンラインや電話で対応する医療機関は全体の1割程度だった。国内で8400万人以上が利用するLINE系の参入で、認知度が高まる可能性がある。
菅政権もオンライン診療の恒久化を検討する。2016年からオンライン診療に取り組む外房こどもクリニック(千葉県いすみ市)の黒木春郎院長は「離島や山間へき地に住む人だけでなく、都市部の忙しいビジネスパーソンにも利点がある」と強調する。
厚労省は入り口を狭める事前規制を行ってきた。4月以降は厚労省のガイドラインに照らし、問題ないかを3カ月ごとに検証する事後規制となった。日本医師会の今村聡副会長は「ガイドラインを守らない医師もいる。事後規制をしっかりする必要がある」と話す。
自由診療は事後規制の対象に入っていない。美容医療のクリニックがオンライン診療を通じ、糖尿病治療薬を痩身目的で販売する例などが国民生活センターに寄せられている。
認定NPO法人ささえあい医療人権センターコムル(大阪市)の山口育子理事長は「こうした診療やガイドライン違反の事例を積極的に取り締まることによって、安心安全なオンライン診療を確立してほしい」と訴える。
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周辺機器やデータの充実カギ
オンライン診療は関連データや医療機器とつなげることで有用性が高まる。「地域の医療機関が共通の時間外窓口をつくるとき、電子カルテなどを共有しておけば、当番の医師がオンラインで患者を診られる」。慶応大学大学院の工藤紀篤特任助教はこう話す。
オンライン医療のシステムを提供するMICIN(東京・千代田)の原聖吾・最高経営責任者(CEO)も「血圧などのデータを継続的にとり、オンライン診療に生かすモニタリングは重要な技術」という。
データを診療につなげる機器などが医療用に認定される例は少ない。厚労省は腕時計型端末「アップルウオッチ」に搭載された心電計アプリを9月に医療機器として認定したが、米国では18年に提供が始まっていた。規制改革推進会議の一員で医療コンサルタントの大石佳能子さんは「医療用途のウエアラブル端末などに認定の遅れがないかチェックしていきたい」と話す。
(相川浩之)
[日本経済新聞夕刊2020年9月30日付]
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