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米紙連載をまとめた著書(右)と、世界の識者5人とともに登場したインタビュー集

ノーベル経済学者のポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授が、ニューヨーク・タイムズ紙で連載を始めたのは2000年。邦訳が出た近著をもとに足跡をたどってみた。

「評論家稼業は当初の予定には入っていなかった」。『ゾンビとの論争』(山形浩生訳、早川書房、20年7月)はニューヨーク・タイムズに連載中のコラムを中心に、他媒体に書いた文章も加えてテーマ別にまとめた論考集だ。コラム執筆の基本ルール、仕事上の後悔、自身の最高傑作とみる学術論文といった話題もあり、内面がにじみ出ている。

「いまだに、副業でジャーナリストをやっている大学教授のつもりでいる」。世界各地の貿易や産業のパターンを示す学術論文で、研究者としての地歩を固めた。政治や政策とは無縁な内容だったが、1980年代以降、政策への関心と関与を深め、93年のエッセーでは「お気に入りの論文のいくつかは政策に端を発した仕事から生まれた」と記している。現在はマクロ経済学に関する研究が相当部分を占め、特にジョン・メイナード・ケインズの研究と関連した思想とつながっていると説明する。

政治的な圧力を無視して研究を続けるのは、ほとんどの学者にとって正しい選択だが、研究を理解、尊重しつつ、政治的な論争に飛び込む意欲もある「公的な知識人」も必要であり、自分はその役割を果たそうとしているという。同書のタイトルにあるゾンビ(思想)とは、「反証によって滅びたはずなのに、相変わらずヨタヨタとうろついては人々の脳みそを食い散らかす思想だ」とし、「高所得者の税金を下げれば奇跡のような経済成長が起こるという頑固な発想」を一例として挙げる。

世界の識者6人へのインタビュー集『コロナ後の世界』(大野和基編、文春新書、20年7月)にも登場し、政治的な立場や信条を披露しながら現状を分析している。新型コロナウイルスによる世界の景気後退を「人工的な昏睡(こんすい)状態」と表現し、失業者の支援拡充を訴えた。日本の現状には厳しい見方を示しつつも「日本は世界でも有数のプロダクト・エコノミー(良品を生産する経済)を形成し、世界中の人々はまだまだ良質な日本製品を欲しがっている。今後、東京の道路が荒れ果て、雑草が生えてくるような状況には陥らない」と奮起を促す。「公的な知識人」の発信力は健在だ。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2020年9月26日付]

ゾンビとの論争:経済学、政治、よりよい未来のための戦い

著者 : ポール・クルーグマン
出版 : 早川書房
価格 : 3,630 円(税込み)

コロナ後の世界

出版 : 文藝春秋
価格 : 844 円(税込み)

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