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アフターコロナの「三方良し」飲食店 高級食材手軽に

日経MJ

間シェフは、お得な「三方良しプラン」を全店で提供する
間シェフは、お得な「三方良しプラン」を全店で提供する

前回お伝えした東京・竹芝の「SUD Restaurant / TERAKOYA(以下SUD TERAKOYA)」は、アフターコロナに躍進するレストランだと注目している。その理由は同店を運営する寺子屋(東京都小金井市)の間光男オーナーシェフの経営理念にある(前回の記事は、「海の向こうはスカイツリー 東京・竹芝に高級店が開業」)。

同社は1954年に東京都小金井市で創業し、今日まで多くのファンを獲得している。3代目の間オーナーシェフが発信する伝統的なフレンチの流れを守りつつ、新しい調理法や斬新な発想を加えたメニューの数々は、国内外の食通に注目されており、遠方から足しげく通うファンも多い。

邸宅を改装した店内と、国分寺崖線に沿って広がる美しい日本庭園を活かし、2000年ごろからレストランウエディングにも対応。ウエディング利用客は、その後の記念日利用につながるのでファン作りの一助になっている。高級店だけでなく手ごろな価格で本格的なフレンチの味が楽しめる「ブラッスリーAmicale(立川)」「ブラッスリーEDIBLE(吉祥寺)」を開業し、ファン拡大と人材育成を両立させた。

盤石に見える同社の経営だが、今回の新型コロナ感染拡大の被害は甚大だ。「売り上げの減少が著しく3月は前年比で5割減、4月は8割減になり危機感を感じました。これまでリーマン・ショック、東日本大震災など、多くの危機がありましたが今回はそれらを大きく上回りました」と間シェフは話す。

それでも「お客様はもちろん、同じようにスタッフ、仕入れ先も大切」と雇用と産地を守るために全ての店の営業を続けた。「飲食店はインフラでもあり、どんなときも営業を続ける、というのが持論です。東日本大震災のとき、小金井は輪番停電のエリアに入っていました。この時は店内にキャンドルを配して営業し、なんとかお客様をもてなしました」と間シェフ。

コロナ禍においては、5月下旬から全店で「三方良しプラン」を始めた。これは行き場を失った高級食材を積極的に仕入れ、格安プランで提供して集客につなげるプランだ。

例えばA4ランク黒毛和牛とフォアグラを使った「A4ランク黒毛和牛フィレ肉フォアグラのロッシーニ、トリュフのマッシュポテト添え」を単品1800円(税別)で提供する。このメニューは通常4000円相当なので、かなりお得だ。

「東京五輪の需要を当て込んで育てられた高級和牛が余っており、畜産業界は悲鳴を上げています」と間シェフ。鮮魚なども含めた1次産業を支えないと、将来の料理界が心配という。「原価ギリギリで提供することで、自粛ムードのお客様に高級食材を食べて元気になっていただきたい」と考え、生産者、お客、提供店の三方にメリットがあるメニューを期間限定で提供。当初は1カ月限定だったが、好評のため9月末まで延長している。

こうした下地があったからこそ、この状況でもぜいを尽くしたSUD TERAKOYAの開業に踏み切れた。

まだ油断できないが、同店は前号で紹介したように、独自性の高い料理に海上アクセスに対応したロケーションなど、話題性は十分。コロナアフターには国内外の富裕層を集めるはずだ。飲食店経営で成功するには、地道な努力の積み重ねと大胆な挑戦が必要だと感じる取り組みだ。

(フードジャーナリスト 鈴木桂水)

鈴木桂水(すずき・けいすい)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。“美味しい料理のその前”が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。

[日経MJ 2020年9月25日付]

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