深まる秋の味覚、サケとイクラのはらこ飯 宮城・亘理
宮城県南部の亘理町の家庭料理「はらこ飯」。サケの煮汁で炊いたご飯の上に、調理したイクラ(はらこ)とサケをまぶしたソウルフードだ。阿武隈川を産卵のために遡上するサケを調理したことをルーツに、今は地域を代表する観光資源になっている。サケの水揚げシーズンになると飲食店が味を競い、各地から観光客がサケ尽くしの秋の味覚を求めて集まってくる。
「秋が深まるにつれておいしくなるんです」。海鮮料理店「あら浜」の女将、塚部慶子さんは説明する。米どころの宮城の新米と、寒流で脂が乗ったサケのハーモニーが風味を深める。イクラは湯を通し、皮を薄くして調理。甘めのご飯の味付けでしっとりとした「三味一体」の風味を出す。母から教わった「漁師の味」を引き継いでいる。
漁港に近い荒浜地区の店は2011年3月、東日本大震災の津波被害に遭った。仙台市の仙台三越にブースを確保するなどして、同年8月から販売を続けた。旧店の看板を「仙台で復興中 必ず戻ります」とのメモとともに店舗跡地に置き、16年8月に念願の再開を果たした。
国道6号沿いの和風レストラン「田園」は、はらこ飯を飲食店で最初に提供したとされる。今のシーズンは北海道の銀ザケ。秋が深まるにつれて岩手や宮城へと水揚げ場所が変わる。しょうゆベースの煮汁でサケを煮上げ、その汁で米を炊く。イクラは湯につけ、手でほぐす。
サケもイクラも思った以上に軟らかく、すし屋のイクラ丼とは異なる。店を運営する武進(宮城県山元町)の菅野武貴社長は「サケは最高ランクを仕入れる」と話す。「地球温暖化のためか、サケが取れる期間が短くなってきた」と食材確保に追われる。
折り詰めで提供するのは「おしか商店」。13年に行った震災復興支援イベント「元祖はらこめし味くらべ総選挙」で1位に輝いた。今も復興工事をしていた人たちが「はらこ飯が食べたい」と戻ってくることもある。持ち帰りのため保存性を考慮し、うまみを強くしている。サケやイクラ、米、つゆをセットにしたレシピ付き冷凍パックも通信販売している。
店は13年から経営者親子を相次ぎ亡くし、閉店の危機に見舞われた。そこに給食事業などを運営するモリプレゼンス(亘理町)が「おしかの味が途絶えるのは惜しい」と経営を引き継いだ。森義洋専務は「はらこ飯は地元が誇る数少ない文化。このまま残るようにしたい」と語る。
亘理町民の「はらこ飯愛」は深い。同町議会は2019年9月、はらこめし推進条例を全会一致で可決、制定した。町議会では「はらこ飯はサケイクラ丼にあらず」という条文を入れるかどうかまで議論した。
条例は伊達政宗に褒められたとされる歴史をひもとき、宮城を代表する秋の郷土料理として後世に伝承することを目的にしている。阿武隈川を遡上するサケの漁が本格化する10月、「はらこめしの日」を8日に定めた。「8」の形がイクラに似ているからだという。
(仙台支局長 和佐徹哉)
[日本経済新聞夕刊2020年9月24日付]
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