『巨象も踊る』で知る部門長の役割 技術は翻訳せよ伊藤忠テクノソリューションズ会長 菊地哲氏

菊地哲氏と座右の書・愛読書
菊地哲氏と座右の書・愛読書
大学を出て入社したのが総合商社。海外で仕事をしたい思いと、目立つ存在でないものの交易という仕事で社会に役立つ職業であることに引かれた。
きくち・さとし 1952年秋田県生まれ。76年東大法卒。伊藤忠商事入社。同社常務などを歴任。2012年伊藤忠テクノソリューションズ社長。20年から現職。

「商人とは何か」ということに関心を持ち、商人の存在意義について知りたくなりました。子供の頃から歴史モノが好きで、商人にクローズアップした歴史小説をよく手にします。社会人なりたての頃に偶然書店で見つけ、引き込まれたのが『豪商伝』です。

薩摩・指宿の海運商「山木」を復興した8代目浜崎太平次の生きざまが独特な筆致と史観で描かれる。江戸末期の鎖国下の中にあって、独自の嗅覚で蝦夷や琉球、中国と交易し、そこから得た莫大な富が薩摩藩を経済的に陰ながら支え、雄藩へと導く。太平次の不屈の精神は商社マンになりたての自分を奮い立たせてくれる内容でした。

商人は歴史の表舞台に出てくることはまれです。しかし、ビジネスがないと国や社会が動かないのも事実です。同じ明治維新の激動期を舞台にした『椿と花水木』で描かれたジョン万次郎の波乱に富む生涯も鮮烈ですね。漁船が遭難し、孤島で5カ月近く過ごして米捕鯨船に救助され、言葉も分からない異国で暮らすようになった万次郎の奮闘を、後の海外駐在時代に思い出し、想像がかき立てられました。

一時帰国がままならない時代の海外駐在では、日本語の活字が恋しく、同僚が出張で訪れるときには本を持ってきてもらい、むさぼるように活字を追っていましたね。気になる文章があると傍線を引き、書き留めるようにもなっていました。

30歳代になり管理職として部下を持つようになると、このメモが役に立ちました。何かを発信するためには何かを吸収する必要があります。本は自分では経験できない世界から豊富な知識が得られるのが魅力です。今はパソコンでメモをアップデートしています。

経営企画を担当する業務部長になり会社の在り方を考えるようになったときに一冊の本と出合う。

長年、資本主義社会と向き合ってこられた岩井克人さんの手による会社論『会社はこれからどうなるのか』です。会社の成り立ち、いかなる組織であるべきか、トップに立つ人物に求められる素養は何か。私が抱いていた素朴な疑問に答えてくれました。

2003年の出版ですが、長期の視点に立っており、今読んでもその価値は変わりません。「会社とは株主のものでしかないというアメリカ的な『株主主権』論の正当性が、いままさに疑われ始めている」というくだりは腹落ちしました。トップに求められるものとして倫理観の大切さを説くところも共感が持てます。

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