タオル店・日本酒バー… オンライン接客を体験した
ウインドーショッピングや店舗での品定めは気乗りしない人もいるのではないだろうか。コロナ禍もありオンラインで接客を受けられる店が増えている。体験してみた。
まずはタオルメーカーのイケウチオーガニック(愛媛県今治市)が4月下旬に始めたオンライン接客を受けてみた。ビデオ会議システム「Zoom」を使い、時間は1回約40分で無料。すでに80組以上が利用しているという。
予約し、時間になると、パソコン画面から「いらっしゃいませ」。京都ストア(京都市)店長の益田晴子さんが、店頭から対応してくれる。
「ふわふわで吸水性も高いバスタオル」と記者の希望を伝えると、「2点紹介したいです」と益田さん。一つ目は「オーガニック520」。「見えますか」と、画面に近づけてくれる。パイル(表面の輪のような糸)が長めだ。水をよく吸うが、密度が高くないので、乾きは比較的早そう。手をグーにしてタオルをパンチしてくれ、何となくだが弾力も伝わってきた。
同様に、オーガニックコットンと竹の繊維の「バンブー540」も紹介してくれた。
触れないもどかしさはあるが、(1)やわらかい(2)しっかり(3)吸水性(4)速乾性の4軸に、タオルの種類をプロットしたマトリクス表も共有してくれる。他のタイプのタオルも見せてもらえば比較しやすい。
「520と540……」。気づけば品番で話していた記者。店頭だったらありえないだろう。商品名だけでなく、疑問や要望を言葉にしなければ伝わらないため、普段より少し面倒。ただ、その分自分の求めている点が明確になり、無駄な買い物は防げそうだ。
他のお客さんを気にする必要もないので、洗濯方法や自宅のバスマットに合うタオルの色まで聞いていた。結局、記者は520を購入。会話中、益田さんの「くるまれたらめちゃくちゃ幸せになる」の言葉が刺さった。
ネット通販で4月にチャット接客を始めたのが、アパレル大手のジュン(東京・港)。サイトでは、商品情報とともに「チャットで相談する」ボタンがある。ここを押すとメッセージを入力でき、相談に乗ってくれる。
晴雨兼用の傘を探していた記者。気になる傘は赤やベージュなど、多色展開。日傘としてはどの色がベストか。メッセージで尋ねると、ものの数分で「こちらの商品はUVカット効果があるので、お好きなカラーで問題ないと思います」と返事がきた。
さらに「お時間ください」と付記されており、その約1時間後、色ごとのUVカット率を丁寧に教えてくれた。
対応してくれるのは店舗での販売経験者。利用者の3割強がリピーターといい「身長や体重、おなかが出ているなど、店頭だと伝えにくい悩みを、お客さん側から話してくれる」とデジタルリテイリング推進部部長の酒井智弘さん。分かる気がする。LINEで知り合いとやりとりしている感覚で気兼ねないのだ。
夜は、日本酒BARあさくら(京都市)が4月に始めたZoomでのオンラインバーへ。木曜から日曜日に開催し、参加費1000円でその週は何回でもアクセスできる。
お酒とおつまみは自分で用意し、いざ入店。バーのカウンター越しにいる店主の朝倉康仁さんとあいさつし、パソコン前で自分でついだお酒を飲み始める。
営業中のバーとつながっており、お客さんが来店。注文を聞きに朝倉さんは画面から消えると、「昨日びっくりしましたよ……」と会話が聞こえる。常連さんだ。会話をBGMにナッツをぼりぼり。本当にバーにいるみたい。
しばらくすると、オンラインで参加する人が現れる。皆で乾杯し、お酒の話や菌の話、筋肉の話まで。常連さんが新参者の記者に気を使ってくれた面もあるが、気づけば3時間以上たっていた。「バーはお酒を飲むだけでなく、話しに来る場でもある」(朝倉さん)とサービスを始めた。
日々必要な買い物はしていても、コロナ禍で、店員さんやその場に居合わせるほかのお客さんなど、いわゆる他人とおしゃべりする機会が減っていると実感。単にモノを買うだけでない買い物や飲食の楽しさを思い出した。
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画面越し お点前ちょうだいします
"究極の接客"ともいえる茶会もオンラインで開かれている。Zoomを利用した「茶空会 sakue」。申し込むと、お菓子や抹茶などが宅配便で自宅に届く。当日時間になると、茶室とつながり、表千家の岡田宗凱さんのお点前(てまえ)を体験できる(=写真)。といっても、たてるのは自分だけど……。
始まる前は緊張していたが、参加者は着物姿だけでなく、記者のように普段着の人もいてほっとした。ごはん茶わんで代用し、作法も気にせずだったが、リラックスして楽しめた。湯の沸く音や茶室の雰囲気など伝わりにくいことも。それでもお点前をちょうだいする間は、自宅にも静かな時間が流れた。
(井土聡子)
[NIKKEIプラス1 2020年9月19日付]
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