検査室に森や海のデザイン 闘病中の子どもたちに笑顔
無機質で大人でも居心地が悪いと感じる検査室を装飾する病院が増えている。主に子どもの患者に少しでも不安を和らげてもらうのが狙いで、評判も上々だ。精神面で子どもをサポートする専門職員が検査前に分かりやすく意図を説明し、病気と向き合ってもらう動きも広がっている。
「お魚さんはどこにいるかな」。不安げな表情で放射線検査に臨む女児に向かい、診療放射線技師が壁を指さしながら優しく声をかける。今にも泣き出しそうだった女児の顔に笑みがあふれ、魚が描かれた壁に手を当てて歓声を上げた。
名古屋大学医学部付属病院(名古屋市)では、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)の置かれた検査室を、ぬくもりのあるイラストで装飾している。子どもに少しでも安心して検査に臨んでもらうためだ。計4室を森や海中などのテーマごとにデザインし、動物や海中生物を特殊なシートで貼り付けた。
同院放射線部の担当者は「3年ほど前、同僚が『中にいると閉鎖的で息苦しくなる』とつぶやいたのがきっかけだった」と振り返る。同院は「小児がん拠点病院」で、検査室を利用する小児患者は多い。無機質な空間を少しでも改善しようと計9人のスタッフでプロジェクトを始めた。
闘病する子どもにやさしい現場づくりを、と病院が2019年にクラウドファンディングで募った資金のうち約400万円をかけ同年秋以降に順次完成した。見学した入院中の女児から「好きな動物がいたら検査を頑張れます」との声も寄せられたという。
実物大のゾウをモデルにMRIを装飾したのは、江戸川病院(東京・江戸川)だ。装置本体を胴体に見立て、首元から鼻先まで約2メートルのゾウの顔のぬいぐるみを取り付けた。加藤正二郎病院長は「大人でも無意識に周囲の環境に左右されるもの。病気で苦しむ患者さんの気持ちが装飾で少しでも明るくなればと考えた」と背景を語る。
他にも全国の大学病院などで、検査室を装飾する例は増えつつあるという。
病気で入院・通院する子どもに寄り添い、精神面で支えるチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)と呼ばれる専門職を置く病院も目立ち始めた。
名大病院では、CLSが事前に痛みや音など五感に関することを中心に、検査の流れを模型とぬいぐるみを使って説明している。CTなど円形状の撮影機器を「ドーナツ」や「車両基地」といった子どもの興味に合わせた言葉に置き換える。大人でも不快に感じるMRI検査時の音を子どもが笑顔になるよう「おなら」という言葉に例えるなど、少しでも事前に不安を取り除こうと工夫を凝らす。
立ち会う親への気遣いも忘れない。「子どもにだけ頑張らせてしまっている」と思い悩む人もいるため、「手を握っていていい」など検査中にできることを伝えている。同院のCLSの女性は「検査が好きな子はいないが、不安を乗り越えて自分でもできた、という達成感は重要。検査を終えた後は一緒に喜んであげてほしい」と話す。
また、「買い物に行くなどと嘘をついて検査に連れ出すのではなく、『何でおなかが痛いのか調べてもらおう』などと目的を正確に伝え、子どもにも病気と向き合ってもらうことが大切」と助言する。
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小児の死因、がん多く CT検査など不可欠
厚生労働省によると、子どもの主な死因(不慮の事故や自殺を除く)は、がんや心疾患が上位を占める。病気の診断や経過観察にはコンピューター断層撮影装置(CT)などによる検査が不可欠だ。治療も長期間になりがちで検査は大きなストレスになるという。
死因の中でも特に多いのが、がんだ。毎年約2500人が新たに小児がんと診断されており、うち4割は血液のがんである白血病で、脳腫瘍やリンパ腫などが続く。細胞が未熟で希少疾患も多いため発見が難しく、確定診断に時間を要するケースもある。大人に比べがん細胞の増殖スピードも速いが、化学療法や放射線治療の効果も高い。現在は医療の進歩もあり患者の7~8割が完治するという。
(藤井将太)
[日本経済新聞夕刊2020年9月16日付]
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