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神戸製鋼所の辻本智さん

神戸製鋼所の辻本智さん

新型コロナウイルスの影響で企業の営業現場には逆風が吹く。扱う金額が大きい機械産業では、対面での細かな商談はいまだに重要だ。そんな中、神戸製鋼所の圧縮機事業部で営業総括マネージャーを務める辻本智さん(53)はすでに遠隔会議などの変化に自らを「適合」させつつある。自身にとって新たな武器を磨くことに迷いはない。

7月のある平日、辻本さんと取引先の商談は盛り上がっていた。「今度は二酸化炭素(CO2)削減効果が大きい高温タイプのヒートポンプを提案させて下さい」。こんなやり取りを、ビデオ会議サービスの「Zoom(ズーム)」上で交わしていた。

オンライン、日常に

「取引先ともオンライン飲み会が頻繁にありますよ」。辻本さんは話す。各自がビールやつまみを用意し、1時間ほどで情報を交換する。建設会社や省エネ事業者といった主要な取引先との話題は、新型コロナ禍での施策や今後の業界動向からプライベートまで多岐に及ぶ。今や日常の当たり前のひとこまにオンラインが加わっている。

新型コロナの感染拡大に伴う4月の緊急事態宣言後、生活様式は激変した。人の移動は制限され、対面での接触を避けるためにテレワークが広がった。東京と神戸市を多い時には週2回、往復していた辻本さんの生活も景色が一変した。だが「自分が変わっていかないと取り残されるという危機感を持っている」。

1986年に神鋼の陸上部の選手として入社した辻本さん。キャリアの半分近くは営業畑で過ごしてきた。取引先の所へ足しげく通い、濃密な信頼関係を構築して受注をつかむ。営業マンの王道を歩む中で培ってきた自身の蓄積には自負がある。「第一印象」「雑談力」「即断即決」の3項目が辻本さんのスタイルの根底にある。

例えば初対面での雑談力。辻本さんによると「聞くことに集中しつつ相違点から話を広げる」ところに極意がある。出身地ひとつを取っても「どんな場所なのですか」「何が盛んですか」と相手がしゃべりやすい雰囲気をつくる。こうすることで共通の話題を見つけることが難しい初対面の相手でも、一気に距離を縮めることができる。

実際に結果も残してきた。回転機営業部で圧縮機の販売を担当していた2010年末、大きな受注案件に巡り合った。アジアの大手ガス会社が大型の圧縮機を探している――。辻本さんは奔走した。

だが圧縮機は当時、独シーメンスなど欧州勢の独占状態にあった。神鋼も割って入ろうと開発を始めたが、なかなか突破口を見いだせない。相手が何を求めているかを徹底的に引き出して内部の状況を把握した後、翌日から日本は正月休みに入る年の瀬にもかかわらず、当時の技術部長の現地訪問を取り付けた。

即断即決で突破

現地でのプレゼンテーションを通じ、求めるコスト水準を実現できる道筋を示した結果、容量16万ノルマル立方メートルの空気圧縮機と、吐出圧力4メガ(メガは100万)パスカルの窒素圧縮機の受注が決定した。まさに即断即決だった。

ともに神鋼の圧縮機では過去最大規模の装置で、受注額は2台で約10億円の大型契約だったという。「相手が本当に何を欲しているかを聞き出し、そこへ迅速に我々の技術力などを結集できたことが勝因だ」と振り返る。

掲げる3項目がそろった時、相手からの本音が引き出せて大きな結果につながる。根底は働き方が変わっても揺るがない。ただ「今後は人と会うことが特別なことになっていく」とも感じている。出先の公園から緊急のオンライン会議に出席することもあるという中で、適応に向けて動き出している。

会社や働き方を巡る環境はこれからも変わっていく。すでにZoomや職場向け協業アプリ「Teams(チームズ)」で商談が決まるような事例も出てきた。「これまでの定石に固執せず、新しいツールはどんどん取り入れて武器にしていきたい」。辻本さんの視線はすでに、次の営業スタイルの確立に向いている。

(湯前宗太郎)

つじもと・さとし
1986年に神鋼の陸上部の選手として入社。日本陸上競技選手権大会で6位に入賞するなど活躍した後、2004年からは圧縮機やヒートポンプなどの営業に携わっている。
[日経産業新聞 2020年9月16日付]

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