濃厚スープたっぷり、何杯でも 奄美大島の鶏飯

2020/9/10
ご飯と具材を茶わんに盛り、スープをたっぷりかけるのが鶏飯の共通スタイル(鹿児島県奄美市の「鳥しん」)
ご飯と具材を茶わんに盛り、スープをたっぷりかけるのが鶏飯の共通スタイル(鹿児島県奄美市の「鳥しん」)

世界自然遺産への登録を目指す奄美大島(鹿児島県)を代表する郷土料理の1つが「鶏飯(けいはん)」だ。ほぐした鶏肉などの具材と薬味をご飯にのせ、その上から鶏スープをたっぷりかける。島内の多くの飲食店で提供しており、食べ比べるのも楽しい。

奄美大島の玄関口、奄美空港から西へ車で10分ほど走ると、鶏飯発祥の店「みなとや」に到着する。店頭に立つ鶏の石碑に掲げた由来記には「昭和21年(1946年)、旅館『みなとや』の開業にあたり、ふるさと料理復活の研究の末、アレンジを加えて開発した」と書いてある。

みなとやがある赤木名地区は島の最北部の入り江に位置し、かつて薩摩藩の代官所があった。薩摩藩の役人をもてなす料理として鶏肉の炊き込みご飯が振る舞われたとされ、これが鶏飯の原点と言われる。鉄鍋で出されるスープは鶏を丸ごと入れ、じっくり煮込んだ。鶏のうまみを感じる濃厚さが特徴だ。表面には脂が浮かぶが、見た目とは異なり、口当たりはしつこくなく、何杯でも食べたくなる。

「みなとや」は鶏肉や錦糸卵など7種類の具材を用意

空港と島の中心部の名瀬地区を結ぶ国道58号沿いにあるのが観光客に人気の店「けいはん ひさ倉」。創業者の久倉茂勝さんは大島紬(つむぎ)の元職人だ。職人気質のこだわりで、8種類の具材や薬味のうち、シイタケ、のり、紅ショウガを除き全て自家製。地鶏も自家養鶏場で飼育し、食鶏処理場も併設する徹底ぶりだ。

スープは透明に近い色合いだが、しっかりした味が伝わってくる。その秘密は「ブロイラーではなく、卵を産まなくなった鶏で作ること」。庭で飼っていた鶏の卵を食べ、最後は鶏肉やスープとして食べたというかつての日本の田舎の原風景に重なる。

「けいはん ひさ倉」は透明なスープが特徴

鶏飯ラーメンや鶏飯丼など多彩なメニューを取りそろえているのが名瀬地区にある「鳥しん」だ。ホテルマンだった手島慎二さんが鶏飯のおいしさを全国に広めたいとの思いから創業。各地の物産展で鶏飯を実演販売してきた。「当初は認知度が低く、採算が取れなかった」。何とか関心を持ってもらおうと、鶏飯のスープをアレンジして鶏飯ラーメンを生み出した。

新型コロナウイルスの感染拡大で観光客数が落ち込んだうえ、世界自然遺産の登録審査も延期になるなど、奄美大島にも大きな影響が及んでいる。観光客は少しずつ戻ってきてはいるが、当面はコロナ対策とのバランスが重要だ。まずはざわついた心を鶏飯で癒やすのもいいかもしれない。

〈マメ知識〉「結」の文化で広がり早く
現在のような鶏飯のスタイルが広まったのはなぜか。奄美在住の料理研究家、泉和子さんは「奄美ではおいしい料理のレシピはあっという間に伝わる」と教えてくれた。近隣住民同士で助け合う「結(ゆい)」と呼ぶ密接なつながりで、料理も教え合う文化があるという。もう一つのキーワードが「豚飯(ぶためし)」。自宅で豚肉を塩漬けして長期保存する文化があり、それを使った汁かけご飯が豚飯だ。汁かけご飯が家庭のなじみの味だったことも鶏飯が広まるスピードを速めたようだ。

(鹿児島支局長 久保田泰司)

[日本経済新聞夕刊2020年9月10日付]

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