生と配信で新たな音楽 逆風下でも開業のライブハウス
新型コロナウイルス感染拡大で苦境に立つライブハウス。かつてない逆風が続く今、新たに開店する店がある。「ライブの魅力は変わらない」と新たな音楽の在り方を探る人たちを訪ねた。
「正直言って地獄」。東京・下北沢で8月に開店したライブハウス「LIVE HAUS」のオーナー、スガナミユウさんは苦しい台所事情を明かす。
人種、年代、ジェンダーを超え、皆が集まって楽しめる場所を作りたい――。スガナミさんは2019年末、店長を務めていたライブハウスから独立。当初4月に開業予定だったが、コロナ禍で延期となった。
現在、ライブは週2回程度。2メートルのソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保すると、最大収容人数120人のところ「14人しか収容できない」。
今は上限50人で、店独自のガイドラインを定めて営業する。「毎日緊張感がある。イベントのたびに感染者が出ないか、2~3週間はおびえる」と不安な日々が続く。「借金の返済、家賃、人件費と毎月350万円ほどかかる。やめた方がいいと思うこともある」
1500万円の支援金
それでも「ここで踏ん張れたらいい店になるという確信がある」から続ける。開業前に「箱代(施設使用料)を最大ゼロ円まで割り引く」「20歳未満と訪日客はドリンク代だけで入場できる」という2つのコンセプトを掲げた。コロナでいったんは白紙になったが「収束後に必ず復活させたい」と前を向く。
ライブハウスは「3密」の典型とされ、長期の休業や閉店を余儀なくされたところも多い。クラウドファンディングで何とか経営を維持する店が目立つ中、新店舗の開業資金に充てた人がいる。青森県弘前市で9月半ばの開業を目指す「KEEP THE BEAT」は目標金額800万円のところ、1500万円を超す支援を集めた。オーナーの高取宏樹さんは「未知のウイルスへの恐怖があるなか、多くの人が支援してくれてありがたい」と話す。
高取さんは市内のライブハウス「Mag-Net」で店長を務めていたが、3月に閉店。「地元のバンドが出演し、有名なアーティストを招く場が、町に一つは必要」だと実感し、ライブハウスの灯を絶やすまいと開業を決意した。
少子高齢化もあり、地方都市ではかつてと違って「音楽に全てをささげる若者は少なくなっている」という。ライブハウスも集客に苦労するが「数カ月や数年に1回でもいいからバンドをやりたい、という人は必ずいる。そういう場をなくすことはどうしても考えられない」と訴える。
「見放題」の拠点に
7月末、横浜市でオープンした「1000 Club」は配信ライブに音楽の新たな可能性を見いだす。運営を手掛けるのはガガガSP、打首獄門同好会といった人気バンドが所属するレーベル「LD&K」だ。同店を月額制見放題サービス「サブスクLIVE」の配信拠点として活用する。
同社の大谷秀政社長は「コロナを機に配信ライブが広まるのでは。生のライブとは別物だが、新しいジャンルのコンテンツとして残るだろう」と指摘。ウィズコロナの社会で音楽業界やライブのかたちは変わっていくとみる。
有観客ならば約1000人を収容でき、同社の店舗では最大規模だ。「スポーツの中継があっても観戦に行くように、ライブシーンが盛り上がった方が配信も盛んになる」と説く。現在は来客を200人程度に絞っているが「僕たちはライブの面白さにとりつかれている。復活にかけている」と力を込める。
(北村光)
[日本経済新聞夕刊2020年9月8日付]
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