検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

和歌に息づく文学の神髄 伊勢物語にうかぶ業平の魅力

小説家・高樹のぶ子氏

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

平安時代の歌物語「伊勢物語」。千百年を経ても響く普遍的な魅力はどこにあるのか。本紙夕刊で連載し、五月に刊行された小説「業平」の著者、高樹のぶ子氏が寄稿した。

「伊勢物語」の主人公と言われている、千百年昔の歌人在原業平の人生を、小説として蘇(よみがえ)らせたところ、作者の予想を超えて反響があった。コロナ禍の時代に、古(いにしえ)への旅が好まれるのだろうか。

小説で古典身近に

「伊勢物語」は平安時代の古典として中学高校でその名前が知られているけれど、読み通した人は意外と少ないようだ。業平の名前も、有名な歌も覚えているのに、完読出来ない理由は何だろう。

十三世紀に藤原定家が編纂(へんさん)し書き写したとされる百二十五章段の、現在通行している伊勢物語だが、読み通すには筋道を辿(たど)るのが煩雑で、エピソードも断片的に置かれていて、繋がりが悪いことが大きな理由だと思われる。

もともと通して読むように作られてはおらず、有名な「鬼一口」と呼ばれる芥川の章段や、東下りで詠まれた「かきつばた」の歌など、印象的な場面や歌が沢山(たくさん)あるのだが、順序立てて読むのが難しく、途中で投げ出してしまうのだ。

このたび一代記として、業平の人生を時系列で小説にしたので、ボトルネックとなっていたこの流れの悪さが、一気に解消したのは間違いない。古典の研究者から、まず小説「業平」を読んで、次に「伊勢物語」を読めば解りやすい、と言われたのは嬉(うれ)しかった。

むろん「業平」は小説であり、学者による諸々の研究に沿わない部分も当然あるけれど、可能な限り史実を尊重したので、伊勢物語の導入本として活用されれば本望である。

実際、受験校として有名な開成中学が、テキストとして使って下さった。人生初の古典が「業平」であれば、古典は楽しいものになるだろう。

現代に通じる要素

それにしても業平という男は魅力的だ。伊勢物語の人気が千百年も保たれてきたのは、ひとえに業平の魅力による。

実在の人物であり、その生身から出た歌が、それぞれの時代の心に響いたということだろうが、彼は現代においても充分に、小説の主人公たる要素を持っている。

小説の要素とは、一人の人間としての社会と自我の葛藤、男としての苦悩や、哀楽の情のことである。叶(かな)わぬことへの抵抗や身の処し方は、永遠のテーマ。

その要素はすべて歌の中に在る。詠嘆も賛美も哀切も恋情も、素直に歌に顕(あらわ)れている。

紀貫之は業平について「心余りて言葉足らず」と言ったが、それこそ業平が愛されてきた理由でもある。業平の思いは言葉の技巧を待たずに溢(あふ)れ出してしまうのだ。

万人が共感できる情や、四季の受感は、時の流れにも色褪(いろあ)せない。歌と歌が詠まれた状況を説明する詞書(ことばが)きによる章段、つまり場面の集合である歌物語に、小説的な想像をはたらかせながら、日本人は業平の歌を繰り返し愉(たの)しんで来た。

禁忌の恋に身を投じ、破れた果てに「身を用なき者に思いなし」東へと下る。

あの時代独特の恩寵(おんちょう)だろうが、許されて都へ戻り、その後も権力との距離を測りながら、命の最後まで生き抜いた男。

業平の存在、歌は、日本文学の底を流れる「隠遁(いんとん)者の哀(かな)しみ」「流離の気品」「武より文を尊ぶ美意識」の源流になったと言えるし、漢詩から和歌への文化の移行に、大きな役割を果たしたのも間違いない。

小説「業平」は、伊勢物語に散らばる魚の小骨を拾い集め、骨格を作り肉をつけて泳がせた、と譬(たと)えられることに、あえて付け加えるならば、現代に泳ぐ業平の小骨の一つ一つは、紛れもなく九世紀に実在した歌人のDNAを持っていることだ。作者の私はただ、業平の小骨を繋ぎ合わせ、切れ切れであった情感に流れを作ったまでのこと。

このうえは長く先の世まで、業平さま、泳ぎ続けてください。

[日本経済新聞夕刊2020年8月31日付]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_