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「歴史とは歴史家と歴史事実との尽きぬことを知らない対話」との一節は現在の自分にも強く影響している。
あまこ・さとし 1947年生まれ。早大教卒、一橋大大学院で博士号。共立女子大教授、青山学院大教授、早大現代中国研究所長などを歴任。早大名誉教授。

あまこ・さとし 1947年生まれ。早大教卒、一橋大大学院で博士号。共立女子大教授、青山学院大教授、早大現代中国研究所長などを歴任。早大名誉教授。

社会学系の書を熱心に読み始めたのは大学2年でした。歴史研究に興味を持つ学生仲間との読書会で最初に取り上げたのが、E・H・カーの『歴史とは何か』です。資料発掘で掘り起こされる「新事実」と、それに向き合いどう解釈するかを考え続ける歴史家との対話は尽きない。徹底した実証主義的歴史分析の姿勢が要約されています。

学部学生の頃は中国、アジアに強い関心はありませんでしたが、沖縄返還、ベトナム戦争など時代性に誘われて1969年、無銭旅行に近い状態で沖縄那覇港に上陸します。入沖には旅券が必要。B52の基地がある最前線で日本復帰をめざす沖縄を考えました。高度成長下の日本にはアジアから先の大戦の「侵略」を思い起こさせる「経済侵略」の批判が飛び交ってました。

影響を受けたのが竹内好編集の『アジア主義』です。岡倉天心の「東洋の理想」のほか、日韓の対等な連邦制新国家を唱えた樽井藤吉、宮崎滔天、大川周明、尾崎秀実の著作は刺激的で、右翼、スパイなど表層的見方を超え、アジア主義者が目指したものが理解できる。竹内のアジア主義の積極的な意義は、西洋と対抗するアジアとか、西洋を拒絶するアジアではありません。

西洋的な優れた文化価値をより大規模に実現するために、西洋をもう一度東洋によって包み直す、逆に西洋自身をこちらから変革する。

この文化的な巻き返し、東西文化の高め合い。日本のアジア主義には確かに東洋と西洋との融合・包摂、あるいは止揚する考え方があります。

アジアへの関心を高めた別の動機は中国文化大革命です。当時、文革の評価は一般的に高いものでした。貧しくても平等主義を掲げ、世界に強烈に訴える中国と指導者の毛沢東。中国との国交回復を含め興味は尽きません。

中国の歴史書で輝き続けるのは司馬遷の『史記』です。伝説上の黄帝から前漢の武帝まで描き、当時の状況で徹底した実証主義的手法を用いたのは驚きです。半面、今日、司馬遷の精神がどこまで息づいているか疑わしい。中国の今の近現代史は共産党の価値観、利益の許容内でしか叙述できません。

日本との近代史は中国=善玉、日本=悪玉で、共産党は正義の核心。孫文・蒋介石の時代でさえ国民党は無視か、補足的な役割だけ。人間味ある民間交流も描かれていません。まず結論があり、正当化するデータが意味を持つ。事実は歪曲(わいきょく)されます。

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