健康な歯と口内環境を保つ MTMで定期メンテナンス

磨きにくい部分などを指摘し、歯磨きの仕方などを指導する(東京都西東京市のアップルデンタルセンター)
磨きにくい部分などを指摘し、歯磨きの仕方などを指導する(東京都西東京市のアップルデンタルセンター)

虫歯や歯周病のリスクをあらかじめ把握し、歯科の指導で歯磨きや食生活などを改善する「メディカル・トリートメント・モデル(MTM)」と呼ばれる手法が注目を集めている。歯科に定期的に通って健康な歯や口内環境を保つ。口内の環境は糖尿病などにも関連があるとされ、健康の維持に向けて歯のケアの重要性が増している。

「歯と歯の間に磨き残しがありますね」。東京都西東京市の歯科診療所、アップルデンタルセンター。40代の男性に、歯科衛生士がアドバイスする。男性は歯や口内のメンテナンスのために、数カ月に1回のペースで訪れる。男性は「普段から見てもらって将来、歯がなくならないようにしたい」と話す。

アップルデンタルセンターは2012年にMTMを取り入れた。初診でいきなり治療を始めるということは少なく、まずは検査に重点を置く。口内の写真とレントゲン撮影にとどまらず、患者にガムのようなものをかんでもらって唾液も採取する。虫歯の原因菌となるミュータンス菌やラクトバチラス菌の数を把握するほか、菌が出す酸を中和する唾液の成分や量なども確認する。

こうした検査に加えて虫歯予防に有効なフッ素の使用状況、食生活、虫歯の経験本数などから21段階で、虫歯のなりやすさを判定する。さらに現状のままの状態で、今後1年間に虫歯を避けられる可能性がどれくらいあるかまで提示する。

歯周病に関しても先のとがった器具で、患者の歯肉に炎症や出血がないか、ポケットと呼ぶ歯と歯肉の隙間がどれくらいあるのかなどを一本一本チェック。歯周病のリスクも3段階で示す。

患者は検査を通じて自分の口内状況やリスクを知ることができる。畑慎太郎院長は「多くの人が自分の歯の本数も知らない。まずは知ってもらうことが重要」と説明する。検査後は歯石や細菌の塊を取り除く一方、歯磨きや歯と歯の間を掃除するフロッシングの仕方、食生活などについて助言を受け、日常の歯磨きや口内管理を改善する。治療はその後で、定期的に再評価もする。

16年に実施した厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、65~69歳では平均6.7本の歯をなくしている。MTMを導入するOPひるま歯科矯正歯科(東京都立川市)の晝間康明院長は「従来型の診療では歯が失われてしまう。疑問を持ってほしい」と警鐘を鳴らす。

日本口腔衛生学会の理事長も務める九州大学の山下喜久教授は「歯周病が心血管疾患や呼吸器感染症、糖尿病などに影響することが明らかになっている」と指摘する。

例えば、九大が福岡県久山町で行った研究では口腔(こうくう)の健康が良い住民は生活習慣病を患う人が少なかった。別の研究では歯周病の原因菌が体内に入り込んで各所で炎症を引き起こすとの報告もある。

MTMを実践する歯科の紹介サイト「コミュニケーション・ギア」を運営するクレセル(東京・文京)によると、MTMは00年代前半から普及し始めた。

ただ歯科診療所は全国約6万8000施設あるものの、クレセルの伊藤日出男社長は「MTMは手間がかかり、以前は保険算定の流れにも乗りずらかった。実施しているところは300~400カ所程度だろう」とみる。自分の歯で食事を続けて生活習慣病を予防するためにも、歯科医と二人三脚で口内ケアに取り組める診療所を探したい。

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「定期的に通院」3割

日本は欧米に比べ、定期的に歯科診療所に通う割合が低いとされる。日本歯科医師会は2018年4月、1万人に「歯科医療に関する一般生活者意識調査」を実施した。歯の治療状況を聞いたところ「現在は治療を受けていないが、定期的にチェックを受けている」と答えた割合は3割程度にとどまった。

欧米は8~9割が定期的に通うとされる。つきやま歯科医院専門医療クリニック天神(福岡市)の築山鉄平院長は「仕事などが忙しいとメンテナンス受診の優先順位が下がる。米国では仕事中でも歯科への通院を認める企業も多い」と話す。

国内でも予防歯科の普及に力を入れる企業や健康保険組合が出始めた。富士通は16年に「メディカル・トリートメント・モデル」を導入する歯科診療所でメンテナンスする際の費用の一部を補助。三井グループ関連企業の一部が加入する三井健康保険組合も18年に、メンテナンスや唾液検査の費用を一部負担する制度を導入した。

(高城裕太)

[日本経済新聞夕刊2020年8月12日付]

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