演芸界に新風、6代目神田伯山 講談配信遠くへ届ける

襲名披露興行で「中村仲蔵」を読む(2月、東京・浅草演芸ホール)=神田伯山ティービィーより
襲名披露興行で「中村仲蔵」を読む(2月、東京・浅草演芸ホール)=神田伯山ティービィーより

久々に現れた講談のスター、6代目神田伯山(37)。コロナ禍で真打ち昇進と襲名の披露興行が中断になったが、動画配信で演芸界をリードする。自粛生活や配信への考え方などを聞いた。

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英雄から犯罪者まで、日本史上に際立った個性や事件を語る「講談」。この担い手、講釈師として神田松之丞を名乗った二ツ目時代から人気者となり、2月に真打ちに昇進、大名跡「神田伯山」を襲名した。ところが新型コロナウイルスの感染拡大で、披露興行は半ばを過ぎたあたりで中止や延期になった。

生活一旦リセット

「もちろん残念ではありますが、不幸中の幸運ともいえます」と冷静に語る。2019年は寄席などで700席を超える高座に上がった。「異常なスケジュールでした。これではアウトプットばかりで、インプットができない。そうした生活をリセットすることができた」。1983年生まれ。立川談志の落語に傾倒し、さまざまな演芸を見た上で講談の世界へ。武蔵大学を卒業後に神田松鯉に入門した。

活動自粛期間は「本ばかり読んでました」という。「主に格闘技の本です。先祖が柔術をやっていて、南米で教えていたことを知って、歴史など体系的に勉強しようと思った。考えてみれば、格闘技の本には“熱い話”が多くて、それは講談とも通じますね」

東京の寄席は軒並み4月初旬から6~7月まで休業。その間の最大の変化は、落語や講談などの動画配信が爆発的に増えたことだ。伯山は他に先んじて、真打ち昇進と同時にユーチューブで「神田伯山ティービィー」を始めていた。

「ライブの場合、講談のお客様はせいぜい1000人。でも配信なら、ずっと遠くまで届けられる。外出自粛をする間に、配信で初めて講談を聞いた方は少なからずいるでしょう。その後、講談のお客様は増えていると感じます」

寄席に呼び込む

配信を始めた当初は、襲名披露の舞台裏を伝える番組や高座のアーカイブが多かったが、徐々に他の講釈師の魅力を紹介する対談番組などを増やした。女性講釈師の苦労談や、無頼派風の神田愛山の語りは反響も大きかった。放送界からも注目され、神田伯山ティービィーは今夏、放送批評懇談会の第57回ギャラクシー賞で、テレビ部門・フロンティア賞を獲得した。

「私が先輩や後輩のキャラを売り出して、講釈師や講談に感情移入してもらえるといい」。無料の配信を入り口に、投げ銭を受け付ける「オンライン釈場」を経て、視聴者が実際の寄席にも来てもらえれば理想だという。自身を有名にしたラジオ番組「問わず語りの神田伯山」やテレビの仕事はいわば「名刺代わり」。ここから、観客にライブに来てもらうまでの中間地点として配信があると捉えている。

6月末に本格的に寄席に復帰した。感染症対策で満員にはできないが「お客様に熱気があります。やはり、皆さんエンタメがないと疲弊してしまう」。本来は、連続殺人などブラックな題材が得意だが「今は、笑いたい方が多いのではないでしょうか。苦労の末に成功をつかむ話もいい。(源平合戦での那須与一の活躍を描く)『扇の的』などいいと思います」。

その日の観客に合わせてネタを選び、瞬時に心をつかむ力には定評がある。9月22日まで、東京都美術館で開催中の展覧会「日本三大浮世絵コレクション」で、音声ガイドへの参加や浮世絵にちなんだ講談といった仕事にも挑戦している。

かつて講釈師は夏は怪談、冬は忠臣蔵で人々を沸かせた。しかし、人気が長期低迷する中で減少し、大名跡「神田伯山」も長く途絶えた。それを44年ぶりに復活させた今年は「講談元年」にすると語っていた。そこにコロナ禍が襲った。

「確かに、考えていた企画がいくつかダメになりましたが、やはり今年は講談元年だと思います」と逆境からの巻き返しを狙う。配信という新たな武器を得て、かねて「過小評価されている」と感じている講談の力を世に示すつもりだ。

(編集委員 瀬崎久見子)

[日本経済新聞夕刊2020年8月3日付]

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