手術ロボに「触覚」 患部の硬さや位置、より精密に

ロボットの利用は整形外科領域にもじわり広がっている。日産厚生会玉川病院(東京・世田谷)は昨年、手術用ロボット「メイコーシステム」を導入した。米ストライカー社製で、股関節や膝関節を人工関節に置き換える手術に使う。19年6月に股関節、同年7月に膝関節の手術に保険が適用された。

股関節の手術では骨盤と大腿骨のつなぎ目の骨や軟骨を取り除き、金属やプラスチック製の人工関節に置き換える。メイコーシステムは骨を削る器具などをロボットアームに装着。患部の位置を赤外線で追跡しながら、術前の計画と器具の動きが精密に一致するようにロボットアームが動く。

例えば骨を削る場面では、医師が器具を患部に近づけるとロボットアームがぐっと力を加えて最適な位置に導く。器具を押し込んで骨を削る際も軸が自動的に固定されるため誤差なく削りやすい。手術の精度が上がるため、人工関節と骨が隙間なく密着するという。玉川病院の松原正明副院長は「手術計画さえ立てればロボットに“お任せ”に近い感覚だ」と話す。

患者側にもメリットが大きい。「術後に痛みを感じにくいため、早期にリハビリを始めて退院できる」(松原氏)

ロボットは「手術のデジタル化をもたらす」(埼玉医科大学国際医療センターの小山氏)側面もある。ロボットに集まるデータや人工知能(AI)を駆使すれば「熟練医の優れた手術を再現できるようになる」(同氏)からだ。医師の経験に頼らず安全な手術ができれば、直面する外科医不足への有効な対策になる。

離れた場所にあるロボットを操作する「遠隔手術」も現実味を帯びてきた。すでに日本外科学会が指針作りに着手。玉川病院の松原氏は「5G」など次世代の高速通信技術が普及すれば「遠隔でも質の高い手術ができるだろう。医師の働き方や役割の見直しにもつながる」と期待している。

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高額な維持コスト課題

手術ロボット活用の最大の課題はコストだ。玉川病院の松原氏は「症例数がかなり多い医療機関でないと採算が合いにくい」と指摘する。内視鏡手術に使う「センハンス」は約2億円、整形外科の「メイコーシステム」も数億円する。消耗品や維持費に年1000万円以上かかることも多い。

一方で医療機関が得る手術当たりの収入(診療報酬)は従来の手術とほぼ変わらない。センハンスを使う内視鏡手術の診療報酬は従来の内視鏡手術と同じ。メイコーシステムを使う整形外科手術も2000点(2万円)が上乗せされるにとどまる。年間の症例数が100件に満たないような医療機関では経営的な観点から導入が難しいのが現状だ。

ロボットを使いこなすためには、外科医の教育システムやトレーニング施設の整備も必要だ。埼玉医科大学国際医療センターはセンハンスを使う手術のトレーニング施設を近く開設する予定だ。ロボットの国産化を望む声も多い。川崎重工業などが出資するメディカロイド(神戸市)は内視鏡手術用ロボットを2020年度内にも発売する計画。

(大下淳一)

[日本経済新聞朝刊2020年8月3日付]

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