若き日は高根の花 オーディオの中古をネットで落札
ネットオークションやリサイクル店で中古オーディオ製品を購入して楽しむシニアが増えている。若き日に高根の花だった製品に手が届くようになり、情熱がよみがえっているようだ。
アンプの中にイヌの毛がびっしり!? 7月現在で30万件超のオーディオ製品が出品される「ヤフオク!」。中高生でオーディオに熱を上げ、最近約20年ぶりにCDプレーヤーを新調して関心が再燃した記者(54)は今春ネットオークションに挑戦。怪談のような体験をすることになった。
狙いは1978年にソニーが発売した最上級シリーズの定価9万円のアンプ。アンプとは音楽信号を増幅するオーディオ機器。スピーカーの台を買ったことはあったが機械は初めて。一般的に(1)CDなどの音源を再生するプレーヤー(2)アンプ(3)音を発生するスピーカー――の3点が愛好家の基本セットだ。
状態の良さそうな品を見つけ、入札期限の終了10分前を切ったところで参戦。最高額より1000円高いが、定価の3分の1以下の2万5000円ほどで落札できた。出品者は「美品で音も問題なし」としていたが、現物はパネルの端が数ミリ後ろに曲がり、右側の音が出ないことも。中の基板にはイヌと思われる動物の毛がびっしり付いていた。出品者に問い合わせてもパネルの曲がりやイヌの毛は「気づかなかった」という。
説明にない問題が後から分かった場合、ヤフオク!の保証もあるが、返品や修理代の交渉は基本相対。面倒だったので交渉せず修理に出した。
持ち込んだのはテクニカルブレーン(TB、埼玉県川越市)。オーディオ製品の多くが製造終了後8年程度の部品保管期限が過ぎるとメーカーに修理してもらえない。撤退や消滅で修理窓口がないところも多い。TBは79年の創業以来、そうした製品の「駆け込み寺」として知られる。
期間は1~3週間、修理しなくても基本技術料2万6400円以上が必要だ。丁寧だが高めの料金で知られ、記者の見積もりも16万3900円と購入価格を上回る。
毛をアルコール洗浄してもらい、部品交換などを一部諦め、9万1850円に納めた。定価を上回ってしまったが、「70~90年代はメーカーがしのぎを削り今より音に個性があった」(黒沢直登社長)。昔のソニーの音は硬いともいわれたが記者には何とも清らかな音色で、入手したことに格別の達成感があった。
ヤフオク!は分野別の取引実績を公表していない。ただ、2013年創刊の中古オーディオ専門誌「ステレオ時代」(ネコ・パブリッシング)編集長の沢村信さんは「読者の多くはヤフオク!かリサイクル店を利用して手ごろな70~90年代製の国産ブランドの中古を買っている。結婚や子育てでオーディオ趣味から離れていた60歳前後の男性が再び始めている」と話す。
次にシニアの注目を集めるリサイクル店「ハードオフオーディオサロン吉祥寺店」(東京都武蔵野市)をのぞいた。ハードオフコーポレーションが18年に出したオーディオ専門店の2号店で、330平方メートルの売り場に70~90年代を中心に海外製品も含めて約1200点がそろう。
発売時の半値以下が多く、一式10万円程度からそろう初心者コーナーが売り物。リサイクル系では珍しい修理部門を備え、往年の「サンスイ」のアンプや、国内で事実上消滅した「ナカミチ」のカセットデッキは人気が高く、「サンスイの発売時約10万円のアンプは5万~9万円台で入荷するとすぐ売れる」(店長の宮沢康久さん)。
同店でスピーカーなどを購入した男性(61)は「定年を迎えて趣味を持とうとハードオフで買い始めた」と話す。
余裕のあるシニアには70~80年代の中古輸入オーディオも人気だ。甲府市など3カ所に販売拠点を持つ専門店「オーディオドリッパー」では、高級ブランドの代名詞だった100万円を超える米「マークレビンソン」などの中古品を現物を見ずに通販で買う人が3月以降9割もいる。
世の中お金で買えないものはたくさんあるが、買い戻せる夢もあるようだ。
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始めるコツ「詳しい人に師事」
「ステレオ時代」編集長の沢村信さんに中古オーディオを始める際のコツを聞くと、「詳しい人に師事するのが早道」。ネットを通じて具体的な機種名で情報交換している人たちを探すといいそうだ。テクニカルブレーン本社併設の喫茶店や視聴室では愛好家が情報交換している=写真。リサイクル店で買う場合は、期間中、原状回復できないトラブルがあった場合に返金する保証があるところがお薦めという。
古い製品でも修理・整備に対応する業者が増えている。「サンスイ」出身者がいるアクアオーディオラボ(埼玉県入間市)や「ナカミチ」製品専門のナカミチサービスセンター(茨城県つくばみらい市)など特定ブランドに強いところもある。
(堀聡)
[NIKKEIプラス1 2020年8月1日付]
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