てんかん患者「私が専門家」 学んで治療効果を高める

てんかん患者向けに、病気の仕組みや薬の効き方などを学ぶ「学習プログラム」に取り組む医療機関が出てきた。患者が症状を理解して自信を持つことで、治療効果を高め、社会生活への順応や復帰を支援する。患者の親同士で体験を共有する機会にもなり、不安の軽減にもつながっている。

てんかんは脳の神経細胞の信号が乱れ、意識障害やけいれんなどの発作を起こす病気だ。発作が起きるとぼーっとしたり、意識がはっきりしなくなったりして、社会生活などに支障が出ることもある。国内の患者は100人に1人ほどで、8割が18歳以下の若年齢で発症するのも特徴だ。

てんかんの治療は薬を使うのが一般的だ。ただ症状は多様なうえ、幼少時に発症することも多い。治療が親任せになり、病気の知識が不足する傾向があるという。症状をうまく説明できず、病気を隠すようになると、自信喪失や自己肯定感の低下につながりやすい。

そこで、国内のてんかん治療拠点の一つ、静岡てんかん・神経医療センターが取り組んでいるのが、患者とその家族向けの学習プログラムだ。

ファモーゼスは患者や医療スタッフが船乗りになり、てんかんについて学んでいく=静岡てんかん・神経医療センター提供

船乗りにふんした8~15歳の患者4人ほどが医師や看護師と輪になって話し込んでいる。「発作の時に脳の中はどうなっているかな?」「自分のてんかんを人に説明する練習をしよう」――小児患者向けプログラム「ファモーゼス」の一幕だ。

島々を探検しながら、発作の種類や原因、薬が効く仕組みなどを学ぶ。トレーナーとして指導する医師の大谷英之さんは「ゲームの要素もあり、ノリノリでやってくれる」と話す。患者同士で学ぶことで気持ちを表現しやすくなり、孤独感を感じにくくなるという。

浜松市に住む高柳将斗くん(10)は、2018年にファモーゼスに参加した。将斗くんは5歳の時にてんかんと分かった。当初は病気の理解に苦しんでいた。だが参加後には、発作があったことを「ぼーっとした」「今力が抜けた」と自分から説明するようになった。

患者だけではない。プログラムでは家族も基礎知識や親の役割、患者の自立を支える方法などを学ぶ。将斗くんの母親の信子さんは当初、症状を周りに隠していた。だが参加後は「周りの人が知っていれば、対処してもらいやすい」と考えが変わったという。

親は子供のてんかんを知った際、怒りや悲しみなど様々な感情を持つが、誰かと共有できずに押し殺してしまうことも多い。プログラムで同じ境遇の親と話すと、感情を受容できるようになるという。デリケートな感情を扱うため「スタッフは研修を受けて訓練して臨んでいる」と看護師の原稔枝さんは話す。

大人の患者向けの取り組みもある。埼玉医科大学総合医療センターは、外来患者と家族向けプログラム「エピスクール」を開いている。「患者自身がてんかんの専門家になる」を標語に、知識を増やし社会参加につなげる。スタッフは事前調査で患者と情報を共有し、当日に患者の発言を引き出すよう工夫している。

国立精神・神経医療研究センター病院で実施している独自の学習プログラムでは、患者ごとに自分の症状を人に説明するための「病気の履歴書」などを作る。開始した18年から17人の患者が参加。職場の理解を得るのに役立ち、就労を目指す患者に好評だという。

プログラムはきっかけづくりで、その後の就労支援や生活リズムを整えるためのデイケアなど包括的な支援も重視する。医師の谷口豪さんは学習プログラムで「てんかんをコントロールするという意識に変わる患者も出てきている」と手応えを感じている。

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ドイツ発祥、日本でも効果分析

てんかん学習プログラムの基となっている「モーゼス」は1998年にドイツ語圏で始まった。病気に向き合えるようになったり、発作が減ったりするなどの効果が科学的に実証されている。

日本でもプログラムの効果の分析が出始めている。エピスクールでは実施後にてんかんの知識や生活の質などに改善が見られた。治療効果が実証されれば保険適用や普及に向けて前進する。国立精神・神経医療研究センター病院も治療効果の分析を検討している。

新型コロナウイルスの感染防止などからオンライン化の検討も進む。ただエピスクールを開発した埼玉医科大助教の倉持泉さんは「参加者が心を通わせるには集まることも大事ではないか」と話す。エピスクールは感染対策を講じた上で8月末にも再開する予定だ。

(尾崎達也)

[日本経済新聞夕刊2020年7月29日付]

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