動画配信、独自作品競う ディズニー参入で戦国時代
米ウォルト・ディズニーの動画配信サービスが日本でも6月に始まり、動画配信は顧客争奪の戦国時代に入った。各社は独自コンテンツを強化し、ラインアップの魅力を競い合う。
「舞台を見に行くと、会ったことのない人々と一緒に暗闇の中で自分だけの体験ができる。映画化すれば同じ経験を視聴者に与えられると感じたんだ」
ディズニー+(プラス)で3日に配信が始まったミュージカル映画「ハミルトン」のトーマス・ケイル監督はそう意気込む。米国建国の父の一人、アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いたブロードウェーの大ヒットミュージカルを映画版として撮った。白人である建国の父たちを有色人種が演じたり、歴史とヒップホップを組み合わせたりと現代的な要素が詰まっている。
当初は2021年10月の全米劇場公開を予定していたが、新型コロナウイルスの感染が広がり、世界同時配信に切り替えた。ディズニーは「舞台、映画、配信の良い点を結合させた新しい体験になるだろう」とPRする。
自前配信の強み
ディズニー+は「わんわん物語」などの古典や「スター・ウォーズ」シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)といった劇場公開の大作に加え、配信だけのオリジナル作品が目白押しだ。ウィル・スミスとトム・ホランドの2大スターが声優を務めたアニメ「スパイinデンジャー」もその一つ。5月の劇場公開を予定していたがコロナ禍で公開中止となり、配信に切り替えた。自前で配信を始めた強みを早速生かした。
現代社会を映す硬派なオリジナルドラマが充実しているのが、19年11月にサービスを開始したアップルTV+だ。「ザ・モーニングショー」「レポーター・ガール」は女性の活躍やジャーナリズムの在り方、「リトル・アメリカ」は移民の苦悩という問題を描く。
「See ~暗闇の世界~」のテーマは多様性。全盲のアソシエイトプロデューサーが実体験に沿ってドラマ作りに助言し、視覚や聴覚に障害のある出演者も加えて暗闇の世界を創造した。「アクセシビリティ(視覚・聴覚・身体機能サポート)機能を内蔵したiPhoneなどのハード作りに込めてきた哲学をドラマ作りにも反映させた」(アップル)という。
アニメにも注力
先行するネットフリックスはコンテンツ制作の現地化を急ぐ。「どの国でも自国の俳優や声優、クリエイターが手がける作品を好む。特に日本ではその傾向が強い」(同社)ためだ。地上波テレビで人気だった「深夜食堂」(TBS系)などの番組を独自に製作し、配信したのはその流れだ。
アニメへの注力も目立つ。17年、日本でアニメ専門部署を立ち上げ、すべての意思決定をできるようにした。制作会社と業務提携して中長期的に経営を支援し安定させるなど「クリエイターにはできるだけ自由に制作を任せている」。
4月配信の人気アニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」は全編3DCGで製作した。現実の人や物の動きを3次元(3D)でデジタル記録する「モーションキャプチャー」を取り入れたアクションシーンが見どころで、リアルな戦闘を追求した。
コロナ禍で在宅率が高まってサービス契約者が増え、各社の制作予算は潤沢だ。一方で映画やテレビの制作費は削られ、クリエーターも配信の方がよりよい条件で制作できるという意識が高まっている。映画、テレビ、配信の垣根は揺らいでおり、視聴者の獲得競争が激しくなりそうだ。
(近藤佳宜)
[日本経済新聞夕刊2020年7月28日付]
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