「コロナで窮状、広く知ってほしい」 劇団四季社長

神奈川芸術劇場で開幕し、一時休演となった「マンマ・ミーア!」=樋口 隆宏撮影
神奈川芸術劇場で開幕し、一時休演となった「マンマ・ミーア!」=樋口 隆宏撮影

劇団四季が主要4都市で6つのミュージカルを始動した。新型コロナウイルス対策のため、2月下旬から公演は休止していた。変わる経営戦略について吉田智誉樹社長に聞いた。

――年間ベースで3分の1の公演が失われました。

「1103回、99万人のお客様、85億円の売り上げが消失しました。このまま1席ずつ空けて売ったとして赤字は80億円くらい。23年に黒字経営に転じれば乗り切れますが、24年まで今のような状態なら存亡ラインの検討が必要です」

海外作品上演に壁

――1億円を目標にしたクラウドファンディングで、演劇界の最強劇団、四季でさえ経営が苦しいのかと話題になりました。

「9月まで募集させていただいていますが、1億7000万円ほど集まりました。4日間で目標に達し、胸が熱くなりました。客席を半分しか売れない事態が永続化すると、我々でさえ持たない。演劇を見ない人にも、窮状を知ってほしいという思いもありました」

――人件費の圧縮は?

「役員の報酬は2割カットし、社員には一時帰休、舞台技術者には報酬の数%の減額をお願いしています。個人事業主として契約する600人の俳優には個別に1ステージの単価があり、出演回数を乗じた額が報酬になる。2階建てになっていて、1階部分は優先的に四季に出演する契約の対価として月ごとに払う。2階部分は出演実績に応じた変動部分で、出演がないと払えない。俳優の出演料も減少が避けられません」

――再開にあたってPCR検査を取りいれましたね。

「検査はひとり1回3万円近くかかり重い負担になるが、避けられない。その月に出演するか、出演する可能性のある俳優全員に月1回、唾液によるPCR検査をします。再開にあたり約200人に実施し、全員陰性でした。その後、稽古中の俳優1人に陽性者が出ましたが、出演者やスタッフとの接触がないことを確認した上で再検査し、万全の対策をとりました」

「海外のミュージカルは、ライセンス上の制約があって演出を変えられない。社会的距離を俳優同士でとったり、マスクをしたりすることは不可能。それでも、最大限の努力をしている。『キャッツ』ではネコが客席に降りて歌い踊りますが、売らない無人の席までしか行かない。『ライオンキング』で動物役が通路を通るときは歌わない。これらの対策はライセンス保持者も了解してくれました」

創作コスト削らず

――海外ミュージカルの翻訳上演をする場合、オリジナルスタッフの来日が課題になりますね。

「オリジナルスタッフには定期的に舞台のメンテナンスをしてもらいます。彼らから新しい指導を受けることで、俳優も日本のスタッフも刺激を受ける。延期になった『アナと雪の女王』のような新作の場合は、開幕の2カ月ほど前から多数のスタッフが順次来日します。空港でPCR検査をして2週間隔離ということになると、非常に厳しい」

――海外ミュージカルはライセンスの壁があって、柔軟な商品化ができない。

クラウドファンディングは「演劇を見ない人にも業界の実情を知ってほしい」という思いがあったと吉田社長

「そのためにもオリジナル作品を増やそうと考えています。今年10月に自由劇場で幕を開けるミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』がその意味で大切です。来年、再来年も新企画を打ち出したい。苦しくとも創作にかけるコストは切りません。この部分はペースアップしていく。多様な収益構造の実現には、オリジナルが一番いい」

――延期になった「アナと雪の女王」でS席は税抜き1万1500円。席数の半減が続くと、値上げが不可避になりますか。

「この件での値上げはできるだけしたくない。ただ演劇に限らず、フレキシブルな価格設定は社会に浸透していく。売れにくい日程は値下げし、需要が集中する公演を値上げさせていただくなど、さまざまな手法を検討しています」

(聞き手は編集委員 内田洋一)

[日本経済新聞夕刊2020年7月27日付]

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