音楽ライブそろり再開 厳しい業界基準、収益に不安

小曽根真は人数制限を逆手にとり、客席の真ん中で演奏した(東京都港区のブルーノート東京)
小曽根真は人数制限を逆手にとり、客席の真ん中で演奏した(東京都港区のブルーノート東京)

新型コロナウイルスの感染拡大で休止していたライブハウスやジャズクラブが徐々に営業を始めた。「3密」を避けつつ、盛り上がるライブを演出しようと、逆風の中で手探りの運営が続く。

 「お客さんがリラックスして楽しんでいるのを見て胸に迫るものがあった」。ジャズクラブ、ブルーノート東京(東京・港)の田中奈津子クラブマネージャーは安堵したように語った。

客席エリアで演奏

 6月20日、ピアニストの小曽根真を迎え、観客を入れた公演を約3カ月ぶりに再開した。小曽根は普段テーブルが並ぶ客席エリアの真ん中で演奏し、約2メートルを空けて観客が取り囲む。感染症対策のため、観客は満席時の3分の1程度に絞った。密集を避けつつなるべく多くの人が近くで聴けるように工夫した。

 7月25日にブルーノートで公演するピアニストの山中千尋は「ジャズにとってライブができないのは致命的」と公演ができなかった心苦しさを振り返る。「生の音楽を聴いてもらえるのは私にとってご褒美のような時間。ライブの尊さを伝えたい」と意気込む。

 政府は6月19日にライブハウスなどへの営業自粛要請を解除した。業界団体が公表した感染予防のガイドラインには「来場人数は従前の50%を目安とし、観客同士の距離を最低1メートル空ける」「出演者と観客の距離をなるべく2メートル確保する」といった対策が盛り込まれた。

 多くが該当する収容200人規模の施設では「すべてのルールを守ると十数人しか入らない」(都内のライブハウス運営会社代表)との指摘もある。ガイドラインを取りまとめた団体の一つ、一般社団法人ライブハウスコミッションの近藤正司代表理事(スペースシャワーネットワーク社長)も「このままではビジネスとしては成立しないのは確か」と認める。

 それでも「いつまでも再開しないわけにはいかない。厳しい条件でもガイドラインを作る必要があった」と近藤氏。「感染症対策の知見を積み重ね、徐々に基準を緩和していかなくては」と語る。ライブは音楽市場の生命線だからだ。

力磨き発掘する場

 1990年代、宇多田ヒカルやZARDといったアーティストはほとんどライブをせずに、ミリオンヒットを生み出した。しかし、CDの売り上げが落ち込む一方、ライブの収益は右肩上がりで、今は音楽的にも経済的にもライブが核といえる。ライブハウスは若手が実力を磨き、芸能事務所やレコード会社が原石を発掘する場でもある。そういった「ふ化器」の機能が失われれば、音楽市場の長期低迷につながりかねない。

 老舗ライブハウス「ラ・ママ」(同・渋谷)はSuchmos、あいみょんといった人気者がブレーク前に出演するなど人材発掘でも定評がある。スタンディングなら250人の観客を収容できるが、7月から25人程度に絞って再開した。石塚明彦プロデューサーは「観客を前にすると出演者の輝きが違う」と語る。

 もっとも、コロナ感染者が再び増加し、小劇場ではクラスター(感染者集団)が発生した例もある。「声をかけても『やりたいけど、今はまだちょっと』というミュージシャンも多い。バンドの場合、メンバーが一人でも反対すれば出演はかなわない」と明かす。

 収益面でも大きな課題が横たわる。ライブハウスの主な収入は公演主催者から受け取る施設使用料だ。「キャパシティーが30人以下である以上、今までと同額を受け取るのは難しいだろう」と石塚氏。頼みの綱はライブの有料配信だが、収入をどう分配するかはまだ相場がない。「主催者とこれまで以上に密なコミュニケーションをとらなくては」と話す。

 多くの関係者が「生のライブ+有料配信」という仕組みはチャンスだと声をそろえる。「ブルーノートは格式が高いと思っていた人に魅力を知ってもらう機会になる」(田中氏)。「遠方や年配の人にも楽しんでもらえる」(石塚氏)。音楽が生きていく場を守ろうと奮闘が続く。

(北村光)

[日本経済新聞夕刊2020年7月20日付]

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