話し下手を克服するコツ学ぶ 視線は縦移動、口は開く
人前でのスピーチは苦手で、録音した自分の声にげんなり。コロナ禍でオンラインなどの取材が増え、声などを意識することが増えた。喋(しゃべ)りに自信がない記者が、専門家から学んだ。
東京・新橋にある「ヒューマン話し方教室」を訪ね、1時間のマンツーマンレッスンを体験した。スピーチやプレゼンテーションなどシーンを決め、その様子をビデオで撮影。ビデオを見ながら声の出し方や滑舌、視線や身ぶり手ぶりなどをチェックしてもらうのがレッスンの内容だ。
記者は「取材始めの自己紹介、取材テーマなどの説明」を場面として想定。教室の石井和人代表を取材相手と想定し、話している様子を2分ほどのビデオに収め、一緒に見返した。自分が話している場面を見るのは、正直、あまりいい気がしない。
「気になったのは視線ですね」と石井さん。話しながら次の言葉を考えるとき、確かに視線が横や斜め上に泳ぐ。「考えるときは、横より縦に視線を移動させてください。横に動くと『話の内容を用意していないな、迷っているな』という印象を与えがち。手元を見るなど、縦に動かしたほうが違和感がない」
視線では他のコツも教えてもらった。目を見て話を聞くのはもちろん大切だが、一対一などの会話で相手を見つめすぎても居心地の悪さを与える。適度に相手の顎のあたりに視線を下ろすことも大事。ただし鼻や額など一点を見つめすぎないようにする。
肝心の話し方、口の動きはどうか。「口をもう少し開いてもいい」と石井さん。「話すときに口の開きや動きが足りない人が大半。演劇経験者など一部の人以外は、動かしすぎかなと思うくらいでも不自然にはならない」。口の動きを意識したほうが、相手が聞き取りやすくなり、表情も豊かになるという。
教室では発声練習も体験した。「あいうえお、いうえおあ、うえおあい……」など、行ごとに口の開き、滑舌を意識して音を出していく。記者はナ行が苦手なようで、舌の位置についてアドバイスを受けた。
そのあと「押されれば引き、さがれば進み、摩擦を巧みに避けている管理者について言えば、その戦術はきわめて現実的といえよう」という文章を「押(されれば)」「さ(がれば)」「管理者」「現実的」などにアクセントをつけて読み上げる練習をした。
選挙の候補者や、ミュージカル女優になったくらいの気分で抑揚を付けて読んだが、それでも「もっと強く」と言われるので、いかに普段の会話では抑揚を意識していないかが実感できた。
記者は声が低いことがコンプレックス。自分の声の録音を聞くと「低くてぼそぼそ話している」と感じるのだが、声の低さよりも抑揚のなさや口の開きが原因と指摘された。口の開け方やアクセントを意識してみようと感じた。
話すときの身ぶり手ぶりについては「動かすなら大きめに」と石井さん。特に女性がやりがちな、手をちょこまか動かす動作はせわしない印象を与えるのでNGという。
体験後、同教室の佐藤利江子トレーナーに、プレゼンやスピーチなど大勢の前で話す際の留意点も聞いた。「数百人など大勢の前でも、会場の誰かしらの目を見て話す。一つの句読点までのあいだ一人の人を見て、次の文に移るときに、ほかの人に視線を移すことを意識するとよい」
たとえ客席が暗かったり遠かったりしても、誰かと目を合わせることを意識したほうが、リラックスして話せるという。
大勢の前だとあがってしまうという人も多いだろうが、プレゼンやスピーチは何よりも準備が大切。話す内容を考えることはもちろん、自宅でもビデオに撮って見返すなど練習するといい。その繰り返しで自信が持てるようになるという。何事も一朝一夕では身に付かないのだと、改めて感じた。
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オンライン会議は声を張って
コロナ禍でコミュニケーション方法は変化している。「オンライン会議は相手の顔が大きく映るので、距離が近く感じて小声で話しがち。でも声を張らないとマイクが音を拾ってくれないことも」と元NHKキャスターの牛窪万里子さんは話す。アイコンタクトが重要なのは対面と同じ。カメラの位置も意識しよう。「画面に自分の顔も映ることはメリットととらえ、表情や笑顔、口の開き方などを確認するといい」
牛窪さんは「マスク慣れにも注意」と話す。「口を開けずに話したくなるが、動きが見えない分、より滑舌を意識して」とアドバイス。笑うときはいつもより目を細めるなど、目の表情に意識を向けるのもコツという。
(砂山絵理子)
[NIKKEIプラス1 2020年7月18日付]
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