緑鮮やか強いコシ 潮流が育んだ徳島・鳴門わかめ
激しい潮流で知られる鳴門海峡で育った「鳴門わかめ」は、強いコシの食感とゆでた直後の鮮やかな緑色が特長だ。徳島県は国内で三陸地方(岩手県、宮城県)に次ぐわかめの一大生産地。収穫したばかりのわかめを浜で湯通しして塩をまぶした「塩蔵わかめ」や、わかめの茎を取った後に細く割いて乾燥させた「糸わかめ」は観光客の土産物としても人気が高い。
鳴門わかめを堪能できる店として知名度が高いのが海鮮料理店「びんび家」(徳島県鳴門市)だ。同市中心部から国道11号を海岸沿いに車で20分ほど走ったところにある。新鮮でボリュームのある刺し身や魚の煮付け、海鮮の天ぷらを目当てに、多くの客が訪れる。
創業から50年を超える同店でメイン料理よりも存在感を放っているのが鳴門わかめの味噌汁だ。定食に必ず付く味噌汁は直径17センチメートル強の大きなおわんに、鳴門わかめがたっぷり。魚のアラで取った風味豊かなダシとともに味わうわかめは磯の香りが強く、わかめ本来の味を楽しめると評判だ。味噌汁は単品でも注文できる。
わかめ好きには「わかめ芽かぶ酢」もお薦めだ。荒切りにした鳴門わかめの茎だけを使った酢の物は、コリコリとした独特の食感とねばり、産地の近くでしか味わえない新鮮な香りが楽しめる。
鳴門わかめは夏にかけて陸上で育てた苗を採取し、秋ごろから養殖縄に巻き付けて海中に垂らす。収穫の最盛期は1~3月。この時期の鳴門海峡では、茎を中心に左右に羽を広げたような形で2メートル近くに育ったわかめが次々に水揚げされる風景が見られる。収穫期に取れたものは最もおいしい「新わかめ」として重宝される。
新わかめを堪能するには、塩蔵処理などをしていない生わかめを湯通ししただけで、ポン酢で食べるしゃぶしゃぶがいい。1~3月には徳島市や鳴門市の料理店の多くで提供している。この時期にしかないメニューとして観光客にも人気だ。取れたてのわかめは茶褐色だが、さっと湯通しした瞬間に食欲をそそる鮮やかな緑色に変わる。
鳴門わかめを加工・販売するうずしお食品(鳴門市)は「最もおいしい鳴門わかめの食べ方を県外の人にも知ってもらいたい」(後藤弘樹専務)と、8年近くかけて「潮里わかめ」を開発した。湯通しした直後に瞬間冷凍しており、生に近い食感を味わえる。後藤さんは「鳴門わかめ本来の魅力を楽しんでもらい、1人でも多くのファンを増やしたい」と期待している。
鳴門わかめの歴史は古く、平安時代に阿波の国(徳島県)から朝廷への献上品として記載されている文献もある。徳島県では高級贈答品の一つと位置づけられており、一般家庭の食卓にのるようになったのは昭和期に入ってからと言われる。1958年に県水産試験場がわかめの養殖実験に成功。その後、鳴門市を中心に養殖が広がり、生産量が増えたことが背景にある。鳴門わかめの収穫量は年間1万トンを超えた時期もあったが、現在は消費量の減少や輸入わかめの増加に伴い、5000~6000トンまで減った。
(徳島支局長 長谷川岳志)
[日本経済新聞夕刊2020年7月16日付]
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